1 17の水平線 吉元由美/BREAKFAST CLUB/ミッキー吉野
2 風の回転木馬〜J.D.サリンジャーに捧ぐ〜 吉元由美/柴矢俊彦/きしもとひろし
3 なんて素敵にジャパネスク 吉元由美/久保田洋司/戸田誠司
4 哀愁草子 吉元由美/桐ヶ谷仁/きしもとひろし
5 花景色・花化粧 吉元由美/松本晃彦/きしもとひろし
6 月影のスミレ 吉元由美/久保田洋司/戸田誠司
7 永遠の少年[こども]たち 吉元由美/桐ヶ谷仁/きしもとひろし
8 瑠璃色の夢 吉元由美/柴矢俊彦/きしもとひろし
9 硝子の翼 吉元由美/亀井登志夫/ミッキー吉野
富田さん主演のドラマ『なんて素敵にジャパネスク』を意識して作られたコンセプトアルバム的な一枚。ジャケットも表は五重塔を背景にした白黒写真、裏も和を感じさせるようなカラー写真になっています。
また、全曲の作詞を担当した吉元由美氏は、このアルバムに込めた思いとして「万葉から近代まで8人の女流家人の世界を1986年を生きる富田靖子が表現します。そこで最も私的表現手段である短歌を時代を超えても変わらないTeenagerたち、女性たちのメッセージに置き変えるという試みをしました。」と歌詞カードにコメントを残しています。詞の内容はさまざまなのですが、恋愛色が強くなっており、曲によっては今までの作品よりも一層“踏み込んだ”ものになっています。富田さんがどう思ったかは定かではありませんが……。
曲調としては、大半を編曲しているきしもとひろし氏の傾向なのか、ドラムスやベースをはじめ力強く分厚い編曲になっています。初期の歌謡曲的で繊細な雰囲気とはまた違う良さがあるように思います。
1『17の地平線』は17歳でなければ感じることができない“今”を表現した作品。詞の世界によく合った口ずさみたくなるように爽やかなメロディーで、3連符の跳ねるリズムに打ち込みがメインの編曲がされています。
2『風の回転木馬』は邦楽っぽいシンセサイザーの音色で始まり和風の曲かと思わせておいていきなり英語のコーラスが入ってくるという面白いイントロ(笑)。オーソドックスなコード進行や可愛らしい打ち込みの音色が何となく懐かしい雰囲気で、♪「空を行く風の色が見えた幼い日へ/もういちど帰りたいよ」と思いつつ♪「毎日宝物を見つけた瞳のまま/もういちどやり直すよ/小し(歌詞カード原文ママ)大人になって/(中略)時を駆けるよ」と、辛い思いを抱きながらも前向きに歩き出す心境が描かれています。中盤では、♪「やさしい眼で人は何故嘘つくのだろう/淋しくなるだけなのに」と鋭い詞も。
3『なんて素敵にジャパネスク』は同名ドラマの主題歌でシングル収録曲。恋する女性の応援歌ともいえる歌詞で、日本語の美しい言い回しも多用されており、♪「夢としりせば さめざらましを」と小野小町の短歌からも引用されています。
6『月夜のスミレ』はなんとなく中国風の曲調が耳を惹き付ける一曲。港町を舞台に叶わぬ恋を描いた歌詞で、サビの♪「Sumire
wow Violet」など(英語部分)のリフレインを歌う富田さんが健気に感じられます。
7『永遠の少年たち』は富田さんの歌にしては珍しくスケールの大きな作品で、♪「人はみんな永遠い[とおい]宇宙の少年たちだね/生命をありがとう」、♪「母のような海を抱いた星に生まれた/愛といつも一緒」と、宇宙の大きさで普遍的な愛を歌っています。生命について歌っていることも見逃せません。♪「ひとりぼっち海の底にいるように/泣きたい時/どうぞ 思い出して/誰かがあなたを待っているわ」と語りかけるような富田さんの歌声に元気づけられた人もいると思います(そのうちの一人は筆者だ)。楽曲的には、積極的にストリングスが使われていたり、素直なメロディーラインとコード進行だったり、シンセサイザーの音色がキラキラしていたりと、1986年からさらに数年遡ったような懐かしさを覚えるのですが、そのぶん曲自体に愛しさを感じるため、筆者はこのアルバムの中で一番好きな歌です。こういった歌がアルバムの片隅に残されていて今後誰にも知られることがないであろうのは非常に残念です。アルバムの復刻が無理ならこの歌だけでも(他の人がカバーしても構わないので)21世紀に甦らせてほしい、そんな名曲だと思います。
9『硝子の翼』も7と似たような詞の世界で、ゆったりとした少しソウルフルな曲の中で明日へ飛び立っていくような、アルバムの終わりに相応しい一曲です。♪「Fly
away 鳥は空へと/Far away 人は明日へ/High and high 夢の翼を広げ/生きてゆく 輝きだね」。明日もよい日でありますように。
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