ライヴレポート

2007.8.24(金) Slow Music Slow LIVE '07 in 池上本門寺 前夜祭

【※奥華子さん、つじあやのさんのライヴもレポートしています】

 会場である池上本門寺は都会にぽっかり浮かんだ山の森の中にあり、大きな本堂のすぐ横の広場が特設会場になっていた。入場すると入口近くには自然食材を使った食べ物・飲み物屋があったので、一度も食べたことがなかったタコライスと“サングリア”(サンガリアにあらず。ワインを果汁で割ったものらしい)を購入。ごみは徹底してリサイクル、会場の電力は風力発電のみで賄うという。
 座席は高い方の“らくらくシート”ということでさぞかしいい席だろうと思ったら、ステージから一番離れた後ろ3分の1ぐらいがそれで意表を突かれる。とはいえテーブル付きの大きな座席で、普通の席はパイプ椅子がぎっしり並んでいてとても食事どころではなさそうだったから目をつぶることにした。でも来年行くとしたら普通の席を予約することだろう(笑)。客層は若い世代が中心と言っても世代に強い偏りがある訳でなくお年寄りも割といらっしゃる。何だかお寺でやるライヴらしいなあ。
 日が暮れ始め、前座の「aluto」(uはウムラウト付)というヴァイオリンとヴォーカルのユニットでゆったりとした気分になる。

 そして19時、ライヴが始まる。池上本門寺のお坊さんから始めの挨拶があり、池上本門寺の由来やお寺とは何か、お寺とライヴのエネルギーを感じて宇宙へ広げてほしいという仏教的なお話がありいつも行くようなライヴとは違うエネルギーを感じ始めていた。

 挨拶が終わると奥華子さんが登場。『時かけ』劇場アニメ版の主題歌や「いまのりくん」のCMソングを歌っていることしか知らなかったが、可愛らしい声やセル眼鏡の容姿とは裏腹に広いステージで一人、キーボード弾き語りで堂々と歌う。その演奏がとても上手く、確かにバックバンドは必要ないぐらいの表現力の持ち主だった。以下はセットリスト(曲目リスト)である。

1 小さな星
2 夕立
3 ガーネット(『時をかける少女』劇場アニメ版主題歌)
4 花火
5 迷路
6 恋

 夏の歌を選んで歌いますということで、電気ピアノの音色と甘くまっすぐな歌声が夏の終わりの夕暮れにとても合っていて心地よかった。特に青春を振り返った『ガーネット』と、「辛い世の中だけど信じてくれる人が一人いれば変わるんじゃないか」という思いで作ったという『迷路』が良かった。
 今度初の全国ツアーをされるのだとか。演奏が終わってからのサイン会には長い長い列ができていたが、その気持ちがよく分かった。

 次は待ってました、約1年振りに観るつじあやのさん。「月ってどの辺に出てるんでしょうね〜?」とお客さんに教えてもらいながらうたが始まる。記憶の限り感じたことを。

1 月
 1年振りに聴いた生の歌声はますます優しくなっていて包み込まれるよう。それでいて月に届きそうな済んだ歌声。ウクレレも丸い音がしてる。

2 たんぽぽ
 以前も書いたかも知れないが、デビューしたての頃のCDではこもったようなうたい方だったのが、「君」に正面を向いて「一緒に生きていこう」と語りかけているような明るいうたに変わった印象。

3 クローバー
 ピアノとウッドベースの伴奏が加わり、草原を駆け抜けるような極上の演奏。お寺のエネルギーをもらってるんじゃないかと思った。こちらも明るく爽やかなうたに変わり、『クローバー2007』と呼びたくなるぐらい。つじさんを知った頃の事を思い出して懐かしくなり少し涙する。ここでつじあやのに乾杯(笑)。

4 愛の真夏
 正直あまり好きじゃなかったけど、野外で聴くととてもよかった。サビの終わりで高い声になる所が特に。声を出しにくそうだったけど喉の具合が良くなかったのだろうかと心配した。

5 きっと言える(荒井由実作品)
 どんなカヴァーもつじ色に染めてしまうのがつじあやのの良さだと思う。明るい歌声になったとはいってもこういうしっとりしたうたも歌ってくれて嬉しい。転調した♪「あな〜た〜が好ーきー」が胡弓の音色みたいで艶やかだった。

6 ダーリン
 湘南や千葉の海に行ったときに作ったうただそう。3拍子のウクレレ弾き語りで幸福な海辺の青い海が見えてきた。

7 さよなら愛してる
 このうたについての「出会うべくして出会う別れも受け止めて生きて行きたいなあ」というつじさんの語りが心に残った。つじさんの悲しいうたは心に沁みる。

8 誕生日の歌(タイトル未定/未発売)
「歳をとることで自分が変わっていって色んな自分が見えてくる。いややなーと思う自分も見つめて、もっと褒めてあげたい」という気持ちで作ったうた。今日のつじさんは人生についても語っていていつもに増して生きる糧になった。

 トリは湯川潮音嬢。バンドの準備に今までの3組より多くのスタッフが関わっていて期待が高まる。ウッドベース、エレキギター(バンジョー)、ユーフォニウムという構成だったか。潮音嬢は登場してすぐ団扇の宣伝をしてた(笑)。
 ステージは50メートルぐらい先なのであまりはっきりと見えないが、髪の左右に赤いものをつけている(なんかツインテールみたい)。朱色のワンピースは下の方に白いラインが入っていて肩がひらひらしている(?)。そして心配する(←どんな心配だ)ほど裾が短かった。案の定客席から「かわいい!」「小さい!」と聞こえてきた。

1 緑のアーチ
 お寺のライヴによく合った緩やかな曲調で始まる。自分より大きいギターを持って(嘘)弾き語る姿は何だか健気。

2 霧の夜
 驚くほど暗くせつない歌。昔のフォークソングみたい。こういう歌を作れる若い人がいたのかと感心し、あまりにせつないので涙が出た。でもこういう歌を作ってほしいと思っていたのでとても嬉しかった。伴奏だけになる所でマイクから一歩引いたり、歌い出しで力んだりと迫力を感じて圧倒された。
 新曲だと思ってこの晩に潮音嬢宛に残暑見舞を書いたが、この歌はシングルCD『蝋燭を灯して』に収録されていたのを帰宅してから知った……。とてもしまった。

3 木の葉のように
 こちらもめちゃくちゃ暗い伴奏で始まり、ロシア民謡とフラメンコが混じったような前奏の中で潮音嬢が例の“把手付きの鈴”*をぐるぐる振るという凄い始まり方。容姿や歌声とギャップがあって動けなくなるぐらい怖かった。でもこういう歌、とても好きだ。ギターとウッドベースとユーフォニウムがしっとりと絡む極上の一曲。潮音嬢に乾杯。


*東芝EMI「Great Hunting No.0」より

4 長い冬
 これまた場末のパブから聞こえてきそうな暗い伴奏の中で歌い上げる。今日のライヴは通好み(好き嫌いがはっきり出そう)やな、と思った。

5 風よ吹かないで(CD未収録)
 打って変わって『木漏れび』のような爽やかな歌。ほっとした。

6 ギンガムチェックの小鳥(NHKみんなのうた放映予定)
 鳥かごにやってきた小鳥や庭の花畑に何か尋ねる歌(だった?)。2拍子だと思っていたら突然3拍子になり、コードがメジャーになったりマイナーになったりして可愛らしくも少しせつない。恒例の演奏者紹介もあり。潮音嬢がカウベルをカラカラ鳴らしたり曲に合わせて叩いたり、そのばちで指揮したりするのがとても可愛らしく、「あんな娘[むすめ]欲しー!」と言ったお客さんにとても共感した。
 曲が終わったあと、妖怪の姿で草野球をするという話になり、草野球では子泣きじじいに扮するというマネージャー氏(今回は普通の姿)が登場してTシャツの宣伝をしてた(笑)。

7 かたち
 潮音嬢の「スー……」「ハー……」という呼吸やギターの音のピッチ(音程)をいじって始まる幻想的な前奏。色々なかたちについてゆっくりと歌う、歌声に聴き惚れる一曲だった。

8 キルト
 ランダムに音が出たりディレイがかかったりする機械(「カオスパッド」使用?)を使いつつ弦楽器やエレキギターも使う、そして綺麗な歌声で「ああ〜」と歌う、湯川潮音らしい力強くやさしい一曲。最後のアカペラでは歌声と虫の声しか聴こえなくなって空気が凛とした。

 潮音嬢のライヴが終わってからアンコールを求める拍手がしばらく止まなかったが、無情にも「これで終了しました」というアナウンスで終了。残念だったが、今までにない極上のライヴだったのでとても満足した。

 会場がお寺だったからか強いエネルギーを感じる3時間であった。知っている人のライヴは今までになく気合いが入っているように感じたし、それでいて魂がいたわられるような懐の広い場所だった。この上ない充実感と急に襲ってくる孤独感を持って区内の宿へ向かう。境内で iPod を聴きながら帰る女の子が小さく歌っていた。『緑のアーチ』だった。うれしかった。ありがとう、池上本門寺。合掌

→ライヴ公式サイト

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