KM15
●2013年賀状『雪がとけたら何になる?』/中野梓/『けいおん!』より

2013年賀状

 2012年はそれまでと比べ、思いがけない良い変化のあった一年でした。「こんなことが起こるのか」という劇的な出逢いに恵まれ、幸福感やそれに伴う寂しさを味わうことになりました。
 また、遅ればせながら『けいおん!』にとても嵌まってしまい、この作品から溢れる日々日常の幸せを共有する姿に強く惹かれました。それは2012年の自分にとって非常に共感できるものであり、また象徴するような存在でした。そのためかなり早い段階から描く絵柄はあずにゃん(中野梓)と決めていました(笑)。そんなあずにゃんに2012年の心境を託しました。
 藍鼠の空の下、掌に解ける雪を見るあずにゃん。「雪がとけたら何になる?」……答えは書きませんが、雪解けの喜びを表現してみました。

2013年賀状案

 11月12日。案はすんなり出ました。昨年作画に時間がかかり過ぎたことを反省して難易度を低くし、その分を写植と工作で補ってひとつの作品にしようという魂胆です。

あずにゃんってこんなかんじ?

 同日。案の角度で立つあずにゃんのイメージを10分ぐらいで描いてみる。『映画けいおん!』の赤いマフラー姿の色合いが藍鼠の背景に合いそうだったので採用。管理人には珍しく、脳に描いた映像をそのまま絵にするような感覚で描くことができ、これなら楽勝だと思っていました……この時は。

 意気揚々とトレース用の下絵に取り掛かりました……が、全然描けません。ここからは絵心のない人間がどうにかして描こうと苦しむ様を晒すことになりますが、自戒の為掲載します。

11月30日時点のラフ
 11月30日。手が全く描けず悶絶。絵描きの端くれとして屈辱的な図です。

12月4日のラフ

 12月4日。マフラー以外は着せられたものの、未だ手が描けない。

12月11日のラフ

 12月11日、納得いく下絵がなんとか完成。今まで描いてきた絵柄では顔がどうしても似ず、『けいおん!』のキャラクターデザインに倣って睫毛を分厚くするなど“堀口シフト”を敷くことに。シフトし過ぎると自分が描く意義がなくなるので程々に。
 どうしても描けなかった手は調子のいい時に別に描いておき、合成することで妥協しました。

トレース用下絵完成トレース後の線画彩色完了

 一番左がトレース用に Photoshop 上で合成と修整をした下絵。これを見て「我ながら充分可愛い! これはいける!」と思ってしまったのでした。大抵慢心するとそこで終わります。
 トレースして線画にすると製図のような単調な感じで顔の表情も変わり、彩色してもそれはあまり改善しませんでした。悔やまれますが相手と期限があること、後戻りは今更できません。やはりトレースする時の描き方が鬼門のようです。ここを改善しなければ明日はない!
 ともかくも、イラストはこれで完成です。

 引き続いて管理人にとってお待ちかねの写植の印字です。

2013年賀状写植指定

 このように文字原稿を基に割付計算をして簡単な指定を作り、あとはそれに従って印字するだけです。「するだけ」と言っても間違いは取り消せないので、とても神経を遣います。
 書体は和文が私の定番「石井太丸ゴシック体」、数字は従属欧文と言ってもよいほど相性がいい「ラウンドリー・ボールド」(E29-44)です。文字盤をコード順に整理したばかりだったので良いタイミングでした。どちらの書体もぽってりとして雪っぽく、かと言って過度に主張しない大人な印象です。あずにゃんは見た目がああいう子なのでバランスを取るという意味でも。

2013年賀状・写植の印画紙

 12月30日、亮月写植室にて印字した印画紙です。割付計算が正しかったようで、体裁よく印字できました。しかし気の緩みから誤植が……!

印画紙の拡大1

印画紙の拡大2

 整然と並ぶ写植文字にうっとり……。

2013年賀状・背景の画用紙

 藍鼠の色画用紙に綴り用のパンチで雪の穴を開け、コンパスカッターで謹賀新年の欄の大きな円を開けました。四隅は角丸パンチで処理。そして一文字ずつに切っておいた印画紙を貼り付けます。白い丸シールで裏から貼れば糊要らずで楽です。

2013年賀状・背景の画用紙裏

 これを印刷済みの年賀状はがきに糊付けすれば完成です。
 しかし見かけの単純さに反して予想外に時間がかかり、大晦日に作業中「何でこんな事やってるんだ……」という気持ちになりかけました。

2013年賀状・完成品の束

 でも完成した年賀状の束を見たら、そんな気持ちも喜びへと変わりました。

2013年賀状・個体差

 一枚一枚カッターで人型を切り、パンチの位置や写植の貼り方も違っているので同じものは二つとありません。ただ印刷しただけと違い手作りの味わいが出たように思います。
 心残りなのはインクジェットプリンターが絶不調だったので筋だらけの印刷になってしまったものを送らざるを得なかったことです。作者自身忸怩たる思いでしたが、新年のご挨拶たる年賀状が汚くてたいへん失礼いたしました。また、思っていたよりも年賀状のやり取りを多くさせていただき、写植の印字と色画用紙の枚数が足らず一部の方にはスキャンしたものを送らざるを得ない状況でした。申し訳ありませんでした。

2013年賀状・写植の印字

 今回実際に貼り付けた写植とは別に予備で大きく印字しておいた文字です。石井太丸ゴシック体の「と」が大好きで、管理人がいつも漢字で書く「けたら」を敢えて「けたら」にしました。

石井細ゴシック体KS「『けいおん!』より中野梓

 毎回題材の出典を隅に入れているのですが、今回は最近手に入った手動写植機専用の珍しい書体「石井細ゴシック体KS」(LG-KS)を採用。「お」の2画目の不連続部分とか「り」の脈絡とか、今の書体にはない処理が素敵! 幸いにも三級漢字のサブプレートも入手できたので、「梓」も印字できました。

石井細ゴシック体KS「もっと知りたいな,あずにゃんのこと。」

 最後に亮月写植室ではお約束の「もっと知りたいな,あずにゃんのこと。」。
 石井細ゴシック体KSで印字した文字を仔細に見てみると、同じ太さの線が単調に続いているのではなく起筆部が少し太くなっているのが判ります。当初地図用に開発され、実際小さく印字されることが殆どだったと思われますが、大Q数で鑑賞するとしっとりとしており、意図された用途で使われたときとはまた別の魅力が現れる書体です。


ラフ:2012.11.12 下絵:2012.11.30、12.4、5、9、11
作画:2012.12.15、19、20 彩色:2012.12.26、27
画材:漫画原稿用紙・落描き帳・HB鉛筆・Dr. GRIP シャープペンシル・フジカラーイルミネータープロ・コピックスケッチ・三菱Uni色鉛筆・色画用紙(銘柄失念)・パンチ・コンパスカッター・角丸パンチ・白丸シール・Adobe Photoshop CS3
書体:石井太丸ゴシック体、石井細ゴシック体KS、ラウンドリー・ボールド E29-44(写研)
写植の印字:亮月写植室


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