この書体は、書体メーカーによって制作されたものではなく、フォント関連のウェブサイト「ことりのことり。」の管理人である“あや”さん、つまり個人によって作られたものです。 1990年代中期、1バイトフォント(いわゆる「半角文字」)作成ソフト『Fontographer』の出現によって、個人でもフォントを制作できるようになり、図1(クリックで画像が開きます)のような“カタカナフォント”に代表される私家製フォントが爆発的に生まれた、いわゆる「フォントブーム」が起きました。欧文、ひらがな、カタカナ、絵文字など、様々な書体が生まれましたが、1バイトがゆえに入力が面倒で、仮名漢字変換ができないなど、いくつか難点もありました。 それから数年が経ち、Windows用2バイトフォント(「全角文字」)作成ソフト『TTEdit』『OTEdit』が(安価に2バイトフォントが作れることもあって)脚光を浴び、今度は個人による2バイトフォント作成に人気が出始めました。この「ことり文字ふぉんと」はその代表的な存在といってもよく、その可愛らしい字面のため、『もえたん』などの書籍やCDのジャケット・ブックレット、新聞広告、多くのウェブサイトなどで使われるなど人気書体になりました。これは、個人制作であっても、良いものは良いとして世の中の多くの人に愛されることを表していると思います。逆にいえば、プロ(メーカー)の制作であっても出来が悪いものは使われないということですが……。 この書体の特徴は、メーカー製の丸文字書体ほど幾何学的な整理がされず、手書きの味わいが残っていること、そして何といっても可愛らしいことだと思います。私はこういう字が書けないので、なおさら魅力を感じるのです。「この書体なら、自分の言葉を伝えてくれそう」と思わせる力があります。そして驚くことに、漢字も第二水準まで収録され、記号類もほぼ全て網羅されています。制作者のあやさんによると、紙にサインペンで描いたものをスキャニングして、ソフトでフォント化したということで、大変な労力が注がれていることかと思います。それだけに、このような手書き風の書体で《日本語が普通に打てる》ことはありがたいことなのです。 書体公開からほぼ1年後、この書体の細字版も公開されました。本文として使っても違和感のない、素敵な文字組ができます。これからもこの書体をはじめとして、個人で制作されている2バイトフォントに注目していきたいと思います。 【2009年加筆】 なお、当初のことり文字ふぉんとは人気の高さからかフォントユーザの認識不足からか無断商用使用があとを断たず、2005年から商用使用を禁止、2006年10月から配布停止となっていました。手書き風フォントの代表格といってよい書体だったのでその影響は大きく、フォント利用に当たってのマナーについて深く考えさせられる出来事でした。 それから約3年、2009年8月にアウトラインを大幅に修整した有料フォント「ことり文字ふぉんとPro」として甦りました。 ![]() ことり文字ふぉんと新旧比較 ※旧版は主要な文字に輪郭修整が入る前のものを掲載しています 図のように、拡大しても輪郭がガタガタにならないよう丹念な修整が施されています。旧作の手書きの味わいがよく残った雰囲気も好きでしたが、書体としての完成度が上がったPro版は特に商業など高精細な印刷でその魅力を発揮することと思います。 どんな書体にも言えることですが、利用規約(ReadMe)をよく読み、遵守した上で利用するという守るべきことが今後より浸透することを心から願っています。 ●ファミリー ことり文字ふぉんと(旧・フリー版) 2003.1.7 2003.12.22 2005.7.28、2009.8.12 改稿 |