●モリサワ | 1960年 |
●1970年代の定番明朝体 名作書体「石井中明朝体オールドスタイルかな」(MM-OKL)と双璧をなすオールドスタイルの写真植字用明朝体があります。モリサワの「太明朝体A1」です。 この書体はモリサワが書体開発を始めて間もない1960年に発売されました。モリサワ初の太明朝体で、かつて写植機を共同開発していた石井茂吉氏の明朝体(MM-OKLなど)の流れを汲む字面をしています。そのため、文字によっては先述の石井書体と殆ど見分けがつかないものもあります。 ●デジタルフォント化で復権、大いに普及 この書体は長らくモリサワの手動写植機と電算写植機専用の書体であったのですが、2005年にパーソナルコンピュータ用のデジタルフォント「A1明朝」として復刻されました。
その後「MORISAWA PASSPORT」の普及とともにこの書体の使用頻度が急速に増え、商業印刷だけでなく同人誌など個人発の印刷物でもよく使われる書体となりました。 【管理人のコメント】 ●手動写植の印字と比較してみる A1明朝が発売されてすぐに買った筆者ですが、使っていて何か違和感を感じていました。そこで、手動写植機で印字した「太明朝体A1」と比較してみました。出典は『写植綜合見本帳 VOL.10』(朗文堂/1985年)です。 字形はほぼ写植のものを踏襲しているように見えますが、「か」は懐が狭くなって3画目が長くなり、「で」は右下へ曲がる終筆が左下へ引っ張られるような感じになっているなど、写植とOpenTypeとでは印象が違います。良し悪しは別として、写植のA1を見慣れた私が個人的に違和感を持ったのはこの2文字です。別書体として扱ってもよいかもしれません。 同じQ数・歯送りで重ねて印字してみました。字形だけでなく、寄り引き(文字の位置)や大きさにもかなり手が入っていることが判ります。 ●ぼけ足の検証 A1明朝の特徴である丸め処理、おそらくは写植機で印字した時に現れる“ぼけ足”を表現してあたたかみを出すことを狙ったものと思いますが、手動写植機による印字を見ている者としては「こんなにぼけてたっけ?」と首を傾げるほど誇張したものになっています。 *筆者が新聞広告を毎日観察する限り、2007〜2008年辺りまでは写植のA1が大勢を占めていましたが、その後逆転し、2010年現在写植のA1を見る機会は殆どなくなりました。 「画線の交差部分に写植特有の墨だまりを再現」(モリサワ書体見本の解説)した部分を検証してみます。手元の資料の漢字はどうやらA1ではなく、A101が混植されているようでした。完全な比較にはなりませんが、参考にはなるかと思います。
たしかに写植の太明朝体A101でも“墨だまり”(ぼけ足)が出ていますが、見出しに相当する44Q(11mm)で印字されたものではA1明朝ほど顕著ではありません。 こうした“アナログ感”を書体上で再現する試みはもっとされてよいと思いますが、その度合いが使い手の意図するものではないこともありますので、それを使い手に委ねる“ぼけ足のないA1明朝”があるとなおよいと思います。 ●来歴
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