書体のはなし DFP丸ゴシック体

●ダイナコムウェア 1995年以前

●民生用デジタルフォントの普及とともに

 デジタルフォントには大きく分けて2種類の用途があります。従来の活版印刷や写真植字のような、出版・印刷を業とする者向けの商業用途、そして個人や事務に使用される民生用途です。今回は民生用途の書体についてのはなしです。

 個人や企業による文書作成は、1980年代から1990年代前半のワードプロセッサ専用機の普及や1990年代のパーソナルコンピュータ普及とともに、手書きからこれらの情報処理機器を使用したものへと大きく変化しました。
 これら情報処理機器に搭載された書体(デジタルフォント)には、当初は明朝体が多く採用されましたが、機器の性能向上や用途の広がりとともに、明朝体以外の書体も徐々に開発されていきました。
 1990年代中盤からは、機器に標準搭載されたものだけでなく、後になって追加できるような、パッケージ販売のデジタルフォントおよびその専業メーカーが登場しました。

 その中の1社である「ダイナラブ・ジャパン」(現ダイナコムウェア)は1980年代からデジタルフォントの開発を続けてきた台湾のフォントメーカー「華康科技開発股份有限公司」に端を発しています。ワードプロセッサ専用機にデジタルフォントを提供をするなどしていました。
 パーソナルコンピュータの本格的な普及期直前だった1993年、ダイナラブ・ジャパン社を設立して日本国内のパッケージ販売によるデジタルフォント事業に参入し、以来古参の民生用デジタルフォントメーカーとして大きなシェアを握ってきました。
 明朝体・ゴシック体といった基本書体のみならず、独自のフォント制作技術により多種多彩な書体を大量に開発してきました。

●「ナール」じゃないの?

 ダイナラブ・ジャパン社が開発した丸ゴシック体「DFP丸ゴシック体」ファミリーのうち、ウェイト細・中・中太は初期に開発された書体の一つで、1990年代中期にはその姿を確認することができました。懐の大きなモダンスタイルの丸ゴシック体です。
 これらのウェイトの書体が誕生した経緯や作者、設計意図に関しては、筆者の手許に確認できる文献がなく不明ですが、明らかに写研の丸ゴシック体「ナール」の特徴を模倣しています。ただしその度合いはナールから発展・昇華したものでは決してなく、設計上の意図があってこのような形をしていると判断できるような意匠ではありません。強いて言えば、「ナールの複製ではない」と主張できるようにするための形状(わざと崩した)でしょうか。

ナールDとDFP中太丸ゴシック体との比較

 これらの書体をナールとは切り離して見た場合、漢字はモダンスタイルの丸ゴシック体としてある程度整ったデザインですが、平仮名・片仮名には不自然なカーブが見られ、仮想ボディの正方形一杯にデザインされていない文字があり、骨格のバランスも非常に悪く、安定した文字組はできません。
 また、これらの書体はウェイトが太くなるにつれて懐の白みが潰れ、小~中Q数または低解像度での印字に向きません。
 このように、ナールと比較するまでもなく、そもそもの設計や品質が良くない書体であると判断できます。

 デジタルフォントの丸ゴシック体の種類が現在よりも少なかった1990年代後半のDTP普及期に於いては、写植を知る者も少なくなく、この書体がナールの代替として使用されることがありました。エコマークの「ちきゅうにやさしい」の書体にもDFP中丸ゴシック体が指定されています。
 現在、DTPでは他の丸ゴシック体にナールの役割を託すことが多くなりました。DFP丸ゴシック体はナールに酷似していながら商業印刷の第一線で活躍することがないことからも、この書体が使用に堪えない品質であることを物語っています。今後も民生用途で細々と使われていくことでしょう。

●その後のウェイト展開

 DFP丸ゴシック体ファミリーは、当初は前章に述べたナールを模したデザインのものだけでしたが、その後になって独自にデザインされた新しいウェイトの書体が発表されました。

DFP丸ゴシック体ファミリー見本
DFP丸ゴシック体ファミリー

DFP新細丸ゴシック体」はナールの模倣から離れたモダンスタイルの細い丸ゴシック体、「DFP太/極太/超極太丸ゴシック体」は平成丸ゴシック体に倣ったと思われるオーソドックスな太い丸ゴシック体です。
 新たに加わったウェイトについて、和文部分にはこれといった特徴はありません。しかし、「DFP太丸ゴシック体」の従属欧文はクラシカルな雰囲気で安定感のあるデザインが採用されていて、味わいのある“欧文書体”として独特の存在感があります。

DFP太丸ゴシック体の英数字
DFP太丸ゴシック体の従属欧文

 同じ名称「DFP丸ゴシック体」を持ちながらウェイトによってデザインの方向性が異なり、ファミリーとは言い難い面もありますが、民生用デジタルフォントの発展の歴史の一端を見ることができる書体群です。

●ファミリー

書体名
発表年
DFP新細丸ゴシック体 1999
DFP細丸ゴシック体 1995以前
DFP中丸ゴシック体 1995以前
DFP中太丸ゴシック体 1995以前
DFP太丸ゴシック体 1999
DFP極太丸ゴシック体 1999
DFP超極太丸ゴシック体 1999

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