書体のはなし JTCウインZ10

●ニィス/三宅康文 1994年

●直線のみの造形にこだわった見出し書体

 パーソナルコンピュータで文字を組むことが一般的になってきた1990年代から、さまざまなデジタルフォントが発売され始めました。「モリサワ」「リョービ」といった写植書体の復刻を行った会社とは対照的に、ゼロからオリジナル書体を制作する会社が多数出てきました。
 その中の一つである「ニィス」(旧・日本情報科学)はユニークな書体を生み出し続けています。今回はニィス社の書体「JTCウインZ10」(以下Z10)のはなしです。

 この書体は1994年に発表され(日本タイポグラフィ協会『日本のタイプフェイス』〔2000.9.11発行〕による)、筆者は1990年代中期に使われているのを確認しています(ゲーム雑誌でした)。デザインはモリサワの「じゅん」「アロー」等で有名な三宅康文氏です。Z10(極太)のほか、ファミリー展開としてZ1(細)とZ5(太)、明朝体風のZM9があります。
 三宅氏のデザインする書体には、「た」等にくせのある画線の配置と丸っこい字面という特徴があり、Z10もそのアイデンティティーを引き継いでいます(図1)。一目で誰が作った書体か判るという“作家性”があることは、書体を選ぶ手がかりや楽しさに繋がりますし、書体が単なる工業製品ではなく著作物としての面もあることを示していると思います。

三宅康文氏の書体を比較
図1 三宅康文氏制作の書体を比較

 Z10には既存の書体には見られなかった直線処理が施され、輪郭全てが直線で構成されていることが一番の特徴で、句読点や記号までカクカクしているという徹底ぶりです。
 現代的で硬質な印象もありますが、三宅氏の書体が持つ親しみやすさがあり、それほど冷たさは感じられず(いい意味で)ちょっととぼけた表情をしています。ベースは「JTCウインS10」とみられますが、直線化に際して骨格が若干変更されています(図2)。

S10とZ10の比較
図2 JTCウインS10(上)と同Z10(下)の比較

【管理人のコメント】

●『のだめカンタービレ』で一躍有名に!?

 用例は多く、現在ではバラエティ番組等のテレビ字幕やチラシ類、アニメ・ゲーム関係の印刷物でよく見かけます。
 そして最もよく知られた使用例は、漫画『のだめカンタービレ』のタイトルロゴです(図3)。

のだめカンタービレのロゴ再現図
図3 最も有名な(?)使用例・漫画『のだめカンタービレ』タイトルロゴ(再現)

 クラシックというお堅いイメージのある題材を風変わりなキャラクター達が見事に払拭してくれているので、Z10は作品の顔として好適であると言ってよいのかもしれません。
 この『のだめ』、ロゴ書体の管理がうまくいっていないのか、サイト(のだめフェスティバル)お菓子のパッケージ(のだめののどあめ)では別書体が指定されていて、いーかげんというか、まさに“のだめ”らしい書体使用状況で微笑ましいです。

 Z10が誕生した頃と比べると、現在はまさに百花繚乱といった恵まれた書体環境にあります。Z10のような新書体を通じて、新しい書体づくりや文字組あるいは文字の味わい方を模索していくことは、伝統的な書体を残していくことと同じくらい大切であると思います。その中で、書体が多くの人に愛されるものの為に役立っていくことを願っています。

●ファミリー

書体名
発表年
JTCウインZ1  

JTCウインZ5

 
JTCウインZ10  
JTCウインZM9(明朝体風)  

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