書体のはなし DFP麗雅宋

●ダイナコムウェア/字游工房(仮名) 1997年

●民生用デジタルフォントの普及と発展

 1990年代後半、パーソナルコンピュータは家庭へ本格的に普及しました。それに伴い、年賀状や文書の作成に使用されるようになり、年賀状作成ソフト等や素材集とともに民生用デジタルフォントも多数販売され、普及していきました。
 このころ使用できた主な見出し用の書体は、POP体や丸文字書体、毛筆書体のようにある程度種類が限られていました。

 このような状況の中、フォントメーカー各社は新書体の開発に躍起になっていました。中でも民生用デジタルフォントの大きなシェアを握るダイナラブ・ジャパン(現ダイナコムウェア)は次々と新たな書体を開発していました。
 その中でも、1997年に発表された「麗雅宋」(れいがそう)はそれまでに使用できたどの書体にも似ていない斬新な書体でした。

●現代版「図案文字」

 麗雅宋が持つ最大の特徴は、大正末期から第二次世界大戦前にかけて映画のポスターや新聞広告等を飾っていた“図案文字”を彷彿とさせる独特な造形です。

麗雅宋で戦前の広告を再現
麗雅宋で戦前の広告を再現
(「お顔のアレないカテイ石鹸」出典:『アサヒグラフ』1925年)
麗雅宋は現代的な整理がされているものの、広い懐や幾何学的で優雅さのある曲線処理など、図案文字の文脈を汲んだ書体であることが分かる。

 明朝体のエレメント(構成要素)を基にして図案文字風にアレンジされた麗雅宋は、骨格がバランス良く見えるよう現代的に整理されており、かつての図案文字よりも汎用性があります。また、レトロな印象だけでなく優雅さや華やかさもイメージさせ、デジタルフォントによる新たな表現を可能にしました。

 仮名のデザインは字游工房が担当しました。同社が制作する書体のバランスの良さや安定感が麗雅宋にも現れています。字游工房が担当していない漢字部分もよく作り込まれており、麗雅宋を他社の主要な書体と一緒に使用しても見劣りすることはありません。

●レトロさと優雅さ、そしてメルヘンな派生書体へ

 麗雅宋は当時のデジタルフォントの顔触れにはなかった斬新なスタイルの書体だったため、急速に使われるようになりました。
 ゲームなどサブカルチャー作品のタイトルや字幕、若者向けの雑誌、テレビのテロップなどでは麗雅宋の優雅さやゴージャスさが重宝され、Illustrator などの縁取りやグラデーションのような装飾処理とともに多用されています。
 また、昭和初中期またはそれを想起する雰囲気を描く映像作品では、レトロさを求めるために麗雅宋が使用されることがあります。ただし、麗雅宋自体は平成生まれの新しい書体なので、現実世界との整合性や時代考証が必要な場合に使用すると、当時存在していたことが分かっているものとの間に違和感を生じます(映画『ALWAYS 三丁目の夕日』など)。

 その後、麗雅宋はやや細いW5・W7へとウェイト展開し、現在に至っています。
 2001年には麗雅宋から派生した「優雅宋」(ウェイトはW3・W5・W7)が発売されました。そのメルヘンチックで“乙女”な雰囲気が人気を博し、主に女性向けの印刷物に多用されています。代表的な使用例としては、漫画『ハチミツとクローバー』のタイトルロゴがあります。

優雅宋で再現した『ハチミツとクローバー』ロゴ
優雅宋で再現した『ハチミツとクローバー』ロゴ

 このように、麗雅宋はデジタルフォント普及期に於ける文字表現の幅の拡大に大きく貢献した画期的な書体でした。
 そして現在でも、印刷物は勿論のこと、看板のような屋外広告物、テレビの字幕などに幅広く使われ、多くの人に愛されている“定番書体”です。

●ファミリー

書体名
発表年
麗雅宋W5  
麗雅宋W7  
麗雅宋 1997

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