舞台『ラブハンドル』観覧記
2006年2月24日(金曜日)・於:愛知厚生年金会館

 昨年末、たまたま聴いた曲『渚のドルフィン』をとても気に入って富田靖子さんの歌を聴くようになり、やがて女優としても気になっていったわけだが、レコードやビデオでしか観たことがなかった富田さんは一体どういう人で、どんな演技をするのだろう? とずっと気になっていた。

 ちょうどその思いに合わせるように、彼女が出演するという舞台『ラブハンドル』の話を聞き、早速チケットを予約した。そして2月24日、会場である愛知厚生年金会館へと向かった。

 名古屋市営地下鉄池下駅を降りて2、3分の所に愛知厚生年金会館がある。18時過ぎに到着したが、大体100人弱ぐらいの列が出来ていて驚く。客層は意外と幅広く、中年のご夫婦もいれば大学生っぽい若い女の子が友達同士で来た様子の人もいる。確かに出演者には若い人もいるから納得した。逆に、自分の「富田靖子ファンが多いんじゃないか」という変な思い込みが恥ずかしかった(笑)。「この人トミヤスファンかもしれん」という人は10人ぐらい見かけたが。

 やがて列が動きだし、会場の中へ。売店で記念にパンフレットを購入。1200円。ホールに入ってまず目に入った豪華なセットに感動。小劇場で芝居を観たことはあったが、こういう大きな会場で(自分のお金を払って)観るのは初めてだったのだ。舞台の上手(かみて・右側)にはカーテンのかかった出入り口と本棚、クローゼット、炬燵。中央に木製の立派なデスク、奥に階段があって玄関ドアへ。下手(しもて・左側)にはアンティークな応接セットと出入口がある。建物セットは古そうな雰囲気を醸し出しているが、インテリアはお洒落だ。あと、本棚に飾ってあるガンダムのプラモが気になる。富田さんの趣味だ、多分!(筆者注:富田さんはガンダム好きらしい、と聞いたことがある)

 席は前から7列目の一番左。思っていたより死角が少なくてほっとする。ただ、役者の顔はあまり見えないだろうな、と思った。席に着いてさっき買ったパンフレットを読み、予習そして士気を高める(?)。すんなり予約が取れたので空席が多いかと思っていたが、気付くとほぼ定員(約1100人)がしっかり埋まっていた。

 18時半過ぎ、開演。大まかな内容は、弁護士と秘書のカップルが営む事務所に依頼人が飛び込んできて、色々な事件や人に出くわし、登場人物それぞれが恋愛や結婚に悩む様を描いたコメディー(でいいのでしょうか)。1分に1回は笑える仕掛けがあって、会場から一斉に笑い声が聞こえてきた(私も何度も笑った)。どうしてあんなに小ネタが思い浮かぶんだろうと感心する程。その一方で後半は主人公・“勝”役の原田泰造さんの熱演でしっとりと感動、会場から鼻をすする音が多く聞こえた。筆者も目頭が熱くなった。台詞をトチりそうになるなどちょっと荒削りな感じはあったけど、かえって“勝”としての一生懸命さが強く伝わってきたのだ。そしてあの明るいエンディングなのだから、さすがだ。恋愛や結婚がテーマということで、さまざまな事情を抱えているさまざまな年代の役に感情移入し、自分の立場で解釈して恋愛や結婚に対して前向きな気持ちになれるところがこの舞台のいいところだと思った。カーテンコールは3回。最後にはスタンディングオベーションをする人もちらほら。私も思いきってすればよかった。約3時間という長い作品だったが、それを感じさせないほど惹き込まれていた。

 富田さんの演技にも目を見張るものがあった。芸歴20年以上なのだから当然なのかもしれないが、セットの事務所で“暮らしている”ように思えるぐらい自然で、かつ、仕草や台詞の一つ一つが丁寧に演じられていると思った。中盤から終わりにかけては富田さん演じる“千鶴”の想いがクローズアップされていくのだが、その気持ちが痛いほどわかって涙が出そうになるくらいだった。舞台演劇ということで大きく振る舞わなければならず、声も張り気味にしないと通らないなどの制約があり、叫ぶような台詞はさすがに「歳とったんだな」と思うようなハスキーボイスだったが、電話に出た時や穏やかに話す時の声は往年を彷佛とさせる(筆者の知っている)綺麗な“富田靖子の声”だったことに何だか安心した。

 富田さんそのものは実年齢よりも若く感じられた。レコードを出していた頃から20年ぐらい経っているので、今の富田さんを見たらがっかりするかもしれないと思っていたのだが、そんなことは全くなかった。むしろ、20年経ってもあまり変わってない印象の方が強かった。上演中、観葉植物が倒れそうになって慌てたり、何度かこけそうになったりしたことがあって何だか可愛らしかった(笑)。そういえば、映画『さびしんぼう』のパンフレットのコメントに「お墓を2・3コ倒しちゃいました。」とか「全部で4回くらいこけちゃいました(笑)。」ってあったから、おっちょこちょいなのは昔から変わってないのかもしれない。そんなところも富田さんの良さだと思っています。(←なぜ敬語なのだ)

 終演後の気分はとても良く、帰るのが惜しいくらいだった。舞台の近くまで行ってセットを眺める人も多くいた(私もだ)。……ところで今回会場だった愛知厚生年金会館は現在閉鎖の危機にある。このためロビーでは閉鎖反対の署名を募っていて、筆者もさせて頂いた。こんなにいい舞台を観せてくれる場所がなくなってしまうのはあまりにも勿体ない。またここで素敵な舞台が観られることを願っている。

 帰り道、近くにいた女の子二人組が「富田靖子が何回もこけそうだったよね。一瞬顔が素に戻ってたよ。なんかかわいかった」と言っているのが印象的だった。舞台は偶然の産物があったり感想を共有しやすかったりするのがいい。どうやら富田さんは演技派というだけでなく何かやってくれそうな人みたいだから、ぜひまた彼女の舞台を観に行きたいと思った。【完】

 
パンフレット(左:表紙、右:裏表紙)

→『ラブハンドル』公式サイトへ

→舞台の様子と写真(@niftyシアターフォーラム)へ

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