一寸ノ巾【いっすんのはば】


●形状で文字を拾える配列方式

 写真植字は光学的に文字の形を写し取るため、もととなるネガ状の文字が文字盤に並べられています。
 印字したい文字を能率的に拾うため、文字盤に採用されているのが「一寸ノ巾」配列です。

 一寸ノ巾配列は元々、和文タイプライターの文字配列を研究していた種田豊馬氏が考案したものでした。
 写真植字機の試作当初は日本タイプライター社の配列方式を採用していましたが、音訓配列であり、習熟に時間を要したといいます。
 そこで写真植字機研究所の石井茂吉氏はさらに能率の良いものを求めて配列方式をいくつか探し出し、その中から一寸ノ巾配列を採用しました。

 この配列は戦後、海外で日本語組版をする外国人オペレータにも役立ち、旧ソ連共産党の新聞社「プラウダ」では、日本向け雑誌『ソビエトグラフ』『ソビエト婦人』等を組版している日本語を読めないロシア人オペレータが1時間に1300文字を印字していたといいます(写研『文字に生きる』p.143から)。
 一寸ノ巾配列は写研の電算写植機にも採用され、サプトンの鑽孔機「サベベ」のキーボードや入力編集機「サイバート」のタブレット等がこの配列になっています。

●一寸ノ巾配列のしくみ

 配列順について

 一寸ノ巾配列は文字の形から拾うことができる配列方式で、音訓や画数、部首といった漢字の知識が必要ありません。
 具体的には、基本見出しと呼ばれる51種類の要素(部首に近い概念)によって分類し、語呂の良い順に配列します。それぞれの基本見出しに当てはまる文字のグループの中でも小見出しを設定し(ルールは基本見出しに準じ、類似した形や連想できる形を含む)、順に文字盤へ配列してあります。
 基本見出しの配列順は次の通りです。

一寸ノ巾配列順

いっすんのはば なべぶたしんにゅうははこがまえ かたなぬくひと かりはやまさと だいしょうのじょし くちいいこころにて ゆみとかたほこ よつめいとくさ むしのはねたけのさと しんしゃきゅうもん いぬのあしうまのほね しちよう

 ※「かり」=雁

 このように、見出しの順番の出だしから「一寸ノ巾」配列と名付けられました。

 見出しの発見方法

1 三段見出発見法
 扁の有無に着目し、以下の順に当てはまる見出しが見付かるまで探します。
○扁がある場合 扁 → 旁 → 旁の脚
○扁がない場合 全字形 → 冠 → 脚 →(該当なき場合2へ)

2 二分法
 扁がない文字で、1によって見出しが発見できない場合は文字を上下に分割し、その下部を見出しとします。

3 析出法
 1・2でも見出しが発見できない場合、文字の右下部を見出しとします。

* 補則
○見出しが複数見受けられる場合、画数が多いものを見出しとします。
○文字の中に同じ見出しが複数並んでいて、他の形を交えない場合は、その一つを見出しとします。
○見出しは他の要素と切り合ってはなりません(画線がクロスしてはならないという意味)。触れているだけのものは可。
(※筆者註:見出し「土」には、どの見出しにも当てはまらないような形状のものも含まれています。)

 文字盤の配列順位

 文字盤を写植機に装着した状態で右上から始まり、左へ3文字で下段へ。13段で次の列へ続き、終点は左下です。
 同じ見出しの中では、全字形→扁→冠→旁→脚→旁の脚 の順に配列されています。さらに同じ要素(扁など)の中でも、要素以外の部分が一寸ノ巾順になっています。

写研『画引き索引帳』
文字盤上の文字を探すための画数別索引帳。写研のものはB6変形サイズ、全90ページ。
写植機で使える全ての漢字が載っています。

写研『画引き索引帳』内容
画数順の部首順に掲載されていて、どの文字がどの文字盤のどの位置にあるか分かるようになっています。

【管理人のコメント】
 上記が原則ですが、「現」→「一」、「商」→「口」、「相」→「目」、「静」→「土」のように、なかなか思いつかない所にあったりして、実際には文字探しに苦労します。熟練した写植オペレータは文字を一瞬で探し出して印字していきます。
 一寸ノ巾方式の利点として、DTPによくある同音異義語の誤植がとても少ないことが挙げられます。又、どんな難しい漢字でも一寸ノ巾のルールから類推して探し出すことができ、その場合はかな漢字変換よりも楽に印字することができます。

参考文献
『文字に生きる〈写研五〇年の歩み〉』(写研/1975年)
『スピカ取扱説明書』(写真植字機研究所/1970年)


→写真植字機機能総覧
→写植とは

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