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 今回は、「旧桂光亮月」で一番特徴的な“デジタル彩色”(コンピュータを使って色を塗ることを、私はこう呼んでいます)の作品をご覧頂きたいと思います。
(※パンダキングは今回休みです。←文体を間違えただけですιι)

 1996年2月10日、自分にとって初めてのパーソナルコンピュータとなった“Mac”を買いました。といっても、父がデザインの仕事で使いたかったらしく、「パソコンはええらしいぞぉ〜」と無理矢理説得され、お年玉を巻き上げられた、というのが近いです。パソコンといえば中学の時に授業で使った「PC-98」シリーズしか知らなかったため、自分がしたい事には使えないだろうと思っていたので、本心ではパソコンは欲しくありませんでした。
 パソコンについて殆ど知らなかった私と父は、とにかく安いものを買おうと思っていました。店に行くと、10万円前後のものが隅の方にありました。一番安かったのが、たまたまMacだったのです。そして父と半々で代金99800円を払いました。
 家に帰って早速使ってみました。電源スイッチを押すと「ジョワ〜ン」と独特な起動音がして、「パソコンから普通の(?)音が鳴っとる!」と感激しました。そして画面の色鮮やかさや使いやすさに感心しました(それまで文字だらけで16色の世界しか知らなかった)。いやいや買った私ですら、寝る間も惜しんで『SimTown』の体験版を夜遅くまで楽しんでいたのでした。私以上に父が楽しんでいたようですが(笑)。この「親しみやすさ」がMacに愛着を持つきっかけになったのです。それ以来8年、自分用のコンピュータはMac一筋です。
 あの時Macを選ばなかったら、父は仕事に使えなかったでしょうし、今の私は存在しなかったでしょう……。Macを買って良かった、と心から思っています。
 ちなみに当時の環境は、こんな感じでした。
・Macintosh Performa630(CPU:68LC040 33MHz HD:250MB メモリ:8MB→32MB)
・スキャナ EPSON GT-5000ART(300dpi、各色8bit入出力)
・プリンタ EPSON MJ-500C(720×360dpi、4色インク)
 そんなMac初心者時代に遺されたのが、今回展示した作品です。「Macで何ができるだろう」と試行錯誤を繰り返していたので、絵を描く事はじきに思い付きました。

 最初の作品(旧亮月0D)は、Macで初めて描いた絵です。何年も使っていなかったフロッピーディスクから見つかったもので、自分が持っているデータでは一番古いものです。Macに付属していた「キッドピクス」(いわゆる“お絵描きソフト”)を使ってマウスで描きました。「パソコンといえばアニメ塗り」という偏見(?)があったので、アニメのような画風になっています。ドットの見える描画が、かえってデジタルらしい味わいになっているような気がします。3時間ぐらいかけて描き、(当時としては)いい見栄えに満足していました。

 次(旧亮月8D)は父が仕事で使っていた「Adobe Photoshop 3.0J」を使って描いたものです。データは遺っていませんでしたが、プリンタで印刷したものがとってありました。全体にざらざら・つぶつぶしていますが、当時のプリンタではこれが限界だったのです。マウスで色を塗ったのではなく、ひたすら「グラデーションツール」だけを使って色を着けていきました。今思うとかえって面倒くさそうですが、「デジタルなら楽ができるだろう」という偏見もあったため、敢えて使ったんだと思います。多分……。これ以降のデジタル彩色は全てPhotoshopで行われています。

 3枚目(旧亮月12D)は一時期描いていた小説の表紙のためのイラストで、未完成です。小説の内容についてはあまりにも恥ずかしいので書きませんが、ある少年がこのイラストの少女と出会い……という話です。男の絵は殆ど描けなかったので、表紙の絵に使うのを断念してしまいました。そして結局、小説そのものも書いている途中でやめてしまいました。やめて正解ですι

 4枚目(旧亮月14D)は1997年の暑中見舞いのために描いたものです。手抜きのない(デジタルだからといって楽をしない)デジタル彩色の作品は後にも先にもこれだけでした。ブラシツールと「Kai's Power Tool」を多用して、画面に白いところがなくなるまで塗り尽くしました。あ〜、こんな風に白い所がない絵を久し振りに描いてみたい!
 これもデータが遺っていないので印刷したものなのですが、一世を風靡した“写真画質”のプリンタ「PM-700C」(EPSON)が発売されたばかりの時に父が買ったので、こっそり使わせてもらっていました。インクの粒がかなり見えなくなったのに感激したものです。今見るとキタナイですが、これでも「めちゃくちゃ綺麗!」でした。

 最後(旧亮月28D)は旧桂光亮月でも最後期の作品。控えめな色遣いや文字が折り込まれていることに、次の時代を感じさせるイラストです(そうか?)。『マリーのアトリエ』というゲーム作品がとても気に入り、自分の好みをがらりと変えてしまったのです。色遣いもそうですし、書体選びやレイアウトを考えるようになったのもこのころからです。マリーのアトリエにはいろいろエピソードがあるのですが、旧亮月より後の出来事ですので、それはまた次回、あの作品とともに解説させて頂くことにします。
 彩色にはタブレットを使っていますが、うまく使いこなせませんでした……。Macの処理が追いつかず、何秒か待たないと画面に表れないこともあって実用的ではなかったのです。そしてスレイヤーズの影響を色濃く受けた旧亮月も、この辺りで幕を閉じます。

 実の所、デジタル彩色作品はこれ以降全く描いていません。思うように描けなかったこと、色に深みが出なかったこと、質感がまるでなかったこと、長時間画面を見続けるのは辛いこと、そしてMacを起動しないと色が塗れない(しかも、父の仕事場にあった!)ので面倒くさかったことなどが原因なのですが、何よりも道具を使いこなせるだけの表現力がなかったことに気付かずに飽きてしまったからだと思います。結果として、導入は早かった(周りにデジタル彩色をしている人はいなかった)ものの、飽きるのも早かったです。
 コンピュータで色を塗る、といったところで“絵を描くための画材”であることには変わりはないので、使いこなす努力をしなかったということなのでしょう。「アニメ塗り」や「楽をする手段」というように使いみちを限定せず、何ができるかと挑戦するぐらいでないとなかなか自分の思うようには使わせてくれないと思います。最近では多くの人がPhotoshopを持っているようですが(←あれっ?)、誰が塗っても同じやん、と思うような絵もたくさんあります(プロの作品でも)。道具に頼った絵を描くのではなく、描きたい絵のために道具を使いこなすような心構えでいたいと私は思います。デジタルだけでなく、普通の画材でも。……いや、一番いいのはそういうことを意識せずに楽しく描けることなのでしょうけど。
 そんな今、デジタル彩色に再挑戦してみようかと思っています。もっと肩の力を抜いて。

旧亮月0D
パステル
1996.3.13
Macintosh Performa630
キッドピクス
生データ

旧亮月8D
コルネット
1997.3.10
Macintosh Performa630
Adobe Photoshop 3.0J
出力:MJ-500C

旧亮月12D
『えくすとら・わーく』表紙
オリジナル
1997.5.1(未完成)
Macintosh Performa630
Adobe Photoshop 3.0J
生データ

旧亮月14D
1997年暑中見舞い
リナ/ガウリイ
1997.6.22〜7.15
Macintosh Performa630
Adobe Photoshop 3.0J
出力:PM-700C

旧亮月28D
森へおいでよ!
マルローネ
1998.6.3〜10
Macintosh Performa630
Adobe Photoshop 3.0J
タブレット:WACOM ArtPad II
タイポス35
生データ

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