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 カラーイラストはそれまで色鉛筆かデジタル彩色で描いていたのだが、新しい画材を試したくなっていたのがこの時期だ。サークルでは当然、人の絵を見る機会がとても多かったため、色々な画風・色々な画材を見ることができた。そこで気に入ったのが「コピックスケッチ」(以下、コピック)というデザインマーカーだった。存在は知っていたものの、貧乏学生には高くて買えなかったのだ。何しろ定価で1本399円(消費税法改正により税込み表示です)もするのである。憧れの画材だった。それを何十本も持っていて、何気なく使っていた先輩が羨ましいやら悔しいやらで、とうとう少しだけ買ってしまい、たちまちコピックのとりこになってしまったのだ。
 そこで今週は、コピックを使い始めて間もない頃の作品を集めて展示する。

 最初は、コピックを3色だけ買って初めて描いたイラスト(pa17)。1200円を払うのも大事(おおごと)だったが、何色を買うかについてはわりあいすんなりと決まった。「好きな色……青だ!」(とは叫んでいない。)そして3種類の濃さのものを買って帰り、好きな“エリー”の絵を描いた。当時の日記にはこう書かれていた。
「夢が少し叶っちゃったようで使っていてドキドキした。筆ペンで描くツヤベタ*が好きなので使っていて気持ち良かった。青白ではあるけど気に入るような綺麗な絵が描けた! しばらく青白イラストに興じてみるのもいいかも知れない。」(以上、原文まま)……と。とてもとても、嬉しかったのだ。

*ツヤベタ
 漫画やイラストの表現方法のひとつで、筆ペンその他を使って髪の毛などの光沢を描くこと。艶ベタ。ベタはベタ塗りのことで、むらにならないように一色で塗りつぶすこと。でも、この展覧会を見てる方だったらわかりますよね、この言葉。

 次は緑や茶色を買い足した時に描いたもの(pa18)。絵自体には特に意味はないが、青以外の色も使えることが嬉しかった。色数の足りなさがよく判るのも、今となっては懐かしい。過渡期もいいものだ。
 書かれている字からも判るように(?)書道を学んでいたため、ペン先が昔の筆ペンのようになっているコピックはよく手に馴染んだ。塗りに強弱がつけやすかったのだ。

 そして約1ヶ月後、コピックは13色に増えていた(pa20)。ここまで来るともはや止まらない。街に出る度画材店に寄り、たくさんの色の中から欲しい色を少しずつ少しずつ買っていった。一気に買い揃えるよりも、その方が性に合っている。金銭的な問題があって、“いろどり見取り”(←「選り取り見取り」をもじって)とはいかなかったけれど。
 このころは赤や黄色、紫を最低限揃えて、何とかカラーらしい絵が描けるようになった辺りだ。鮮やかな色が気持ちいい。
 それにしても、こういう鮮やかな絵に私の字は合わない気がするのだが、どうだろうか。前向きに考えれば、自分にしかできない取り合わせなのだけれど(そうか〜?)

 コピックは翌年の年賀状にも早速採用された(pa23・再展示)。絵の上手下手は別として、相性が良かったようで、しばらくの間はコピックでの彩色が主になった。服の柔らかい陰や髪の艶、目、持っている鉛筆の光り具合(←画面ではあまり見えませんが)などのように、彩色そのものが楽しめるからでもある。絵を描くことが好きな人なら持っていても珍しくないと思うが、当時の筆者にとってコピックはとても画期的な画材だった。Mac での印刷とも相性がよいことに気づき、年賀状や暑中見舞の絵に積極的に使っている。

 最後は引越しのお知らせに描いたもの(pa27)。それまで学校の寮に住んでいたが、どうにも落ち着けず(しかも涙が出るほど汚かった!)、アパート(筆者は「下宿」と呼んでいます)暮らしを始めたのだ。綺麗な住まいですべて自分の好きなようにできることが夢のようだった。真の学生生活ここにあり、と思った。相変わらず食に困るほど貧乏だったが、それでも飲み会や食事会を何度となく開いたり、友人がふらっと立ち寄ったり、一時期は居候(いや、大した意味ではありません)がいたりと、今思えば随分色々な楽しいことがあった。
 下宿でそんなことが起ころうことはわからなかったが、それでも引越しの喜びは大きく、このイラストの女の子はVサインをしている。なお、下宿の住所と亮月製作所の旧アドレスは画像処理しているのでご了承頂きたい。(前回の「絵は作者に似る」の考えから行くと、こういう子が好みだったんでしょうかね〜、よく覚えてないけど。今だったら髪はもっと……ふがふが。)
 この絵柄(正確には、目の描き方)で描くのもこのあたりが晩期。あれだけ悩んで作り上げた“パンキンテイスト”(と呼んでいる)をやすやすと捨て去った、あの時代がこの後に控えている。

 コピックなどのマーカー類ほど持っている色数に左右される画材はないと思っている。その色しか出ないからだ。でもそういった(色が少ないという)制約のある中で、何とかしてそれらしく見せようと工夫をするのは楽しかった。たとえば、薄い肌色がないから陰になっている所だけ茶色で塗ろう、とか、グラデーションは無理だから思いきってベタにしよう、とか。例えが妙だが、ファミコンの少ない容量であっても素晴らしい名作ゲームがあったように。

 コピックは使い勝手がとてもよく、見映えもするが、使いこなすのにはかなり時間がかかる(と思う)。その分使い手の癖が現れるというか、扱い方が多種多様で面白い。徹底的にぼかす人やアニメのようにベタで塗る人、主線できっちり色を止める人、ラフにはみ出させる人。ちょっと高いが工夫次第でどんな風にも化ける、魔法の画材(は言い過ぎか)だと思っている。

 



※使用画材からコピックは
省いてあります

pa17
エルフィール
1999.10.30
青ボールペン・
はがき原稿用紙

pa18
ミオ
1999.11.15
ハイテック-C・
はがき原稿用紙

pa20
チェリー
1999.11.21
ハイテック-C・
はがき原稿用紙

pa23
ミオ
1999.12.16
ハイテック-C・
漫画原稿用紙

pa27
引越しました!
オリジナル
2000.3.17
製図ペン・漫画原稿用紙
PowerMacintosh5500/225
出力:PM-770C
ナールM・新ゴL/R・
Futura Light

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