KM13
●2012年賀状『写真植字機のある日常』/東雲なの・はかせ・阪本さん/『日常』より
2011年は諸事情により半年間日常が奪われ、かつ東日本大震災により日常生活を送れることが実は幸せであることを切実に感じる一年でした。亮月製作所としては手動写植機を導入し「亮月写植室」を設立するという大きな変化の年でした。
そこで2012年の年賀状は、日常の有難味と手動写植機導入の喜びをテーマとし、同名の作品『日常』のキャラクターである東雲なのとはかせと猫の阪本さん、そして所有の写植機 PAVO-JV を描くことにしました。
写植機のイラストを描くのは2008年の『写植がある1』のSPICA-QD以来約3年振りでした。
なのは管理人の五指に入る好きなキャラでどうしても描きたいと思っていたので、絵の内容は殆どなのありきのごり押しでした(笑)。
超テキトーな年賀状の原案。SPICA-QDを囲む東雲家の皆さん。どうしてもなののネジを見せたかった!
上のような状況だったので案出しまでは滞りなく進みました。描けなくなるほど低下した画力で描いたことがないキャラを描くというジレンマを解消するため何度もなのの絵を練習し、描線を出来るだけ単純化することで時間と労力を抑えました。
原案を基になのを描いてみる。練習開始から3週間ぐらい。
写植機は撮影したものをそのまま背景に使おうと思いましたが、私の絵柄では写真から絶対に浮いてしまうし写植機を短時間でゼロから描くのは不可能なので、亮月写植室で撮った写真を一旦絵に起こし(ライトボックスでデフォルメしながらトレースし)ました。
背景の線画が確定したら、ライトボックスで背景を透かしながら合うようにキャラを描いていきます。
まずはなのから。
背景の遠近感に沿って概形を決める。管理人は感覚的に描くことが非常に難しい(慣れていない)ので、3Dソフトのようにかなり計算して描く線を決めている。それでもパースが合っているか怪しい。デッサンはイラスト的に違和感がなければ良しとした。
服を着せてトレース用の下絵が完成。なのはモコモコのパーカーを着ているので骨組みの粗をごまかせる(←こら)。出来るだけネジを見せたいがパースが狂うというせめぎ合いがあった。表情が描けた時「裏から見ても可愛い! これはいける!」と確信した(笑)。
下絵を漫画原稿用紙にトレース。柔らかめの鉛筆で強弱を付けながら、時間短縮と労力低減のため出来るだけ単純な線で。
コピックで着彩。時間の関係で陰は付けないつもりだったが、結局それらしく見せるために描き込んでいた。ジーンズを穿いた脚の立体感が上手く出せた。実際、質感を確かめる為にパーカーとジーンズを着て描いた。
自分の絵柄は決して萌える系統ではないと思っているが、自分から見てこれだけ可愛らしさが出ていれば充分だ。可愛さを自覚しているように見えるキャラの絵を描くつもりはない。
続いてはかせと阪本さん。
背景やなのの絵をライトボックスで透かしながら、収まりの良い位置に描く。パースやデッサンはあまり意識せず、勢いだけで線を決定。
下絵からのトレースは30分程でサクッと完成。アニメ版でははかせの笑顔がとても可愛らしいので、目の曲がり具合に気を遣った。
コピックで着彩。なのに比べてあっさりと。
背景はキャラを含めた全体の色合いを考えて軟らかい色調にしました。良い具合に採字板の緑色が全体を引き締める差し色になりました。写植機は細かな部品が多いのでA4いっぱいに描いています。フローリングブロックのお蔭で広角レンズの遠近感がイラストでも出ました。
この背景にキャラを合成します。いつもなら線画を描く段階でライトボックスを使って背景と人物を1枚の紙にまとめて描き起こすのですが、労力節減とキャラの位置の微調整を出来るようにするため着彩してからコンピュータ上で合成しました。
出来るだけまとまり感があるように配置しました。それぞれの要素の作画の段階から三角構図を意識し、なのの足下から頭と右手への逆三角形、はかせの頭から足と阪本さんにかけての三角形、背景とキャラの存在感による三角形などを組み合わせています。写植機はとてつもなく重い機械なので、絵の重心を中央に取るため人物は反対側に寄せてあります。
心残りなのはキャラの縮尺が多少小さい気がするのと、何と言ってもなののネジが殆ど見えないこと! ネジがなかったら普通の女の子だ(それが本人の望みではあるが)。
最後に亮月写植室で自家印字した写植を合成して完成です。『日常』がそうであるように、抑制の利いた文字組でキャラの可愛らしさとのバランスを取りました。
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送り先の5分の1ぐらいの方から「亮月さんが描いた漫画がアニメになったの?」「日常のアニメ観てみたよ・観てみます」という反響がありました。イラストが意図するものの説明が不充分だったことと、「アニメ化する『日常』という作品が題材です」というつもりで添えたNHK教育テレビでの放映開始情報をそのまま受け取って解釈されることを想定していなかったことが誤解の原因だったと思います。
イラストとしては自分にとってはとてもよく描けたと思っていますが、前年を象徴するものを題材としてきた年賀状の表現としてはお粗末だったと反省しています。
今後は作品の意図を的確に伝えられる方法を十分に検討し、それを具体的に表現できるよう努力していきたいです。
原案・ラフ:2011.12.1、12.12・12.21〜25
作画・彩色:2011.12.31〜2012.1.1(なの)、2011.12.26〜2012.1.1(はかせ)、2011.12.30〜2012.1.3(背景)
画材:漫画原稿用紙・落描き帳・HB鉛筆・2H鉛筆・写真用ライトボックス・コピックスケッチ・三菱Uni100色・Adobe Photoshop CS3
書体:石井中明朝体OKL、石井中/太ゴシック体、石井太丸ゴシック体、ライトラインゴシックE11-04(写研)
写植の印字:亮月写植室
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