Apple Users Group Event
文字の楽しみ方

2005年11月12日(土)
於:Apple Store 名古屋栄・1階 


【おことわり】
 当時の資料やメールのデータ消失の為、遺された紙資料、管理人の日記、記憶などにより再構成しております。ご了承ください。

●私でいいんですか?

 2005年秋、亮月製作所に一通のメールが届いた。

「Apple Store 名古屋栄で文字についてのイベントを開くのですが、ゲストとして出て頂けませんか。」

 えっ? あの Apple Store で!? メールの送り主は4月に知り合ったばかり(初顔合わせのときも造詣の深さと情熱に非常に驚いた)のNORIさんだった。所属のユーザーグループ「Mac Friends of Nagoya」が回り持ちでイベントを開催しているそうで、今度がNORIさんの番だったのだ。こんな私が講演していいのだろうかと思ったが、会場が会場なだけに二度とないと思ったので思い切って引き受けた。

 何度かの打ち合わせや資料制作を終え、当日がやってきた。

【イベント内容】(打ち合わせ資料から引用)

◎PRコメント

 日常に溢れ空気のごとく見過ごされがちな文字について、文字におけるデザインとデザインにおける文字の役割を通して文字の楽しみ方を解説。また、MacOS X の優れたタイポグラフィ支援機能についても説明。名古屋を代表する文字好き2人が、文字のすばらしさと、文字から広がる興味の広がりを語り合うトークセッションも有り。

◎タイムテーブル

1 NORIさん自己紹介【5分】

2 テーマについて【5分】
 なぜ「文字の楽しみ方」というテーマにしたのか。

3 毎日目にしている文字【20分】
 サイン、書籍、広告等々で、文字が主役になっている物からよく見る物を紹介。
 例)名古屋市交通局のゴナ、「そうだ、京都へ行こう。」の游築36ポ仮名*
 *のちに「新聞特太明朝体」(写研)と判明。

4 グラフィックデザイナーとタイプデザイナー【20分】
 3で紹介した物のグラフィックデザイナーとタイプフェイスデザイナーを紹介。
 好きな音楽に好きなミュージシャンの存在があるように、
 素敵なグラフィックデザインのベースにはタイプフェイスとタイプデザイナーの
 存在があるという事を紹介。

5 桂光亮月トークセッション(亮月登場)【30分〜】
 a 亮月の紹介(NORIさんから)
 b 亮月が文字(のデザインと組版と写植機)に興味を持つようになったきっかけ。
 c 亮月の好きな書体
  ※組み見本と使用例を表示して説明。
 d 文字から広がる興味
  文字から書道、文字から読書、文字からデザイン、文字から印刷へと広がる興味。
  文字を通した人との出会い等の話

6 Mac の優れたタイポグラフィ機能(亮月講壇に居残り)【15分】
 ヒラギノフォントグッドデザイン賞受賞について。
 Mac と DTP の歴史。FONT BOOK やバンドルフォント等のタイポグラフィ機能の紹介。

7 まとめ【5分】
 「恵まれた文字環境にある Mac。これを機会に文字にも興味を持っていただくと
 街を歩いたり、本を見たり、デザインしたりする事がこれまでより
 もっと楽しくなると思います。」

8 質疑応答【20分】

●イベント初挑戦!

 初めて入る Apple Store 名古屋栄。とてもシンプルかつ未来的で、自分には場違いなような気がして恐れ入った。店内の32インチディスプレイを使ってプレゼンテーションをするということで、NORIさんが作ってきたPDFがうまく動作するか確認。店内の一角を借りるという形式で、思ったより客席が少なかったので安心した。

 開場の19時を前に少しずつ人が集まり始める。NORIさんのお知り合いに名刺を頂いてしまった。この無名のサイト管理人の若造(自己評価)が? ……そうこうしているうちに準備が整い、NORIさんの講演が始まる。滞りなく進む様子を見て逆に焦った。心拍数は一気に跳ね上がった。

「それでは本日のメインイベント、桂光亮月さんの登場です!」

 えーっ!? と戸惑いながら登場(笑)。あとはアドリブ、一発勝負である。

【桂光亮月の講演内容】(打ち合わせFAXから引用)

◎文字に興味を持つようになったきっかけ
 ○小三の頃、父親のレタリング教則本と出会う。
 ○小六の時、道徳の時間に教科書と副読本との比較の中で
 「石井中明朝体OKL」(MM-OKL)に出会う。「て」の字形がきっかけ。
 ○中学生時代、写研書体で育ち、写研の見本帳に親しむ。
  出版物や広告に見る写研の書体と組版。ナショナルの取説に見るモリサワ。
 ○DTPによる組版に受けた違和感。

◎好きな書体(順不同)
 1 ナール
 2 ヒラギノ明朝体
 3 見出ゴシック体MB101
 4 ことり文字ふぉんと
 5 石井中明朝体
 6 岩田細明朝体

道路標識(行き先表示板)
ナール・使用例
「道路標識でとてもよく見かけます。懐が大きく遠くからでも見やすいからだと思います。
作者は『ゴナ』でも有名な、愛知県在住の中村征宏さんです」

新聞広告
ゴシックMB101・使用例
「力強い印象のゴシック体で、新聞広告、特にビールの広告によく使われていますね」


ヒラギノ明朝体W6・見本(再現)
「この書体はデジタルフォントの中で一・二を争う美しい明朝体だと思います。
筆で書いたような仮名が特に美しいんですよね」

 文字に興味を持つようになったきっかけの話で「MM-OKL」の“て”について(下図)や写研の見本帳、DTP での組みの甘さについてが特に大きな反応があり、笑いをとったり「懐かしい!!」と言われたり頷かれたり。自分の話がこんなに人に届いているなんて驚きだ。

「て」比較見本
石井中明朝体オールドスタイル大がな(MM-OKL)の「て」(左)
右はオーソドックスな仮名の「ニュースタイル大がな」(MM-NKL)。
横画を折り返した後の曲線もさることながら、濁点の付く位置が大きく違います

 好きな書体の中では「ことり文字」が大反響。知っている人はやはり知っているのだろうか。講演の全体に驚くほど反応があり、話す側も楽しくて緊張しなかった。お客さんは20人強。立ち止まってじっとこちらを見ているのが嬉しかった。

●文字は人をつなぐ。

 2時間にわたるイベントが終わり、拍手が湧く。そして初対面の方とのご挨拶やお話を。筆者が持参した写植の書体見本帳や文字盤を見て「すごく懐かしいね」と写植について沢山語ってくださった元写植オペレータの方。この上なく嬉しかった。大日本スクリーン製造でヒラギノフォントを作っている方。メーカーの書体に関わる方に初めてお会いできて感激した。Mac Friends of Nagoya の方々やNORIさんがお勤めの会社の方々(その中に知ってる子がいてとても驚いた!)。本当にありがとうございました!

 終演後は近くの店で飲み会。ヒラギノフォントのグッドデザイン賞受賞のお祝いに始まり、非常に盛り上がって楽しく話せて飲めた。二次会もNORIさん達数人と行き、文字について濃〜いトークを繰り広げた。先程の元写植オペレータさんはこの道30年のベテランで、「若い人で、こんなに文字に興味を持ってる人がいたなんて知らなかった。嬉しい。」と話されていて、こちらも嬉しくなった。あー、今日すごい日だなー。

 宴が終わると翌3時。人前に出て文字について話すという今までになかった一日。結果、文字は人をつなぐというあたたかなものを得ることができた。これからはサイトの中にとどまらず、遠くへも広く見聞し、またこのような催しに参加したいと思った。

 きっかけをくださった講師のNORIさん、主催の Mac Friends of Nagoya と Apple Store 名古屋栄、お客さんなど、関わってくださった全ての方に感謝。


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