書体のはなし  記号BA-90

●写研 1965年以前

●脱力系記号☆

 写植には、様々な用途を想定した記号が多数用意されています。飾り罫や地紋は勿論のこと、化学構造式や楽譜、麻雀、易卦に使う記号も文字盤化されています。

 その中でひときわ異彩を放っているのが、本稿で取り上げる「記号BA-90」です。ややリアルな笑顔が円の中に入った記号です。見本帳に実用的な記号や地紋が並ぶ中で明らかに浮いています。
 この記号が生まれた経緯は不明です。収録されている「BA(飾り罫・地紋)」という文字盤(サブプレート)を見ると、©写研 ’68 と記されています。1968年にはこの記号が存在していた模様です。2012.7.16追記:写研の1965年の見本帳にこの記号が掲載されているので、文字盤の発売はそれ以前と推測されます。
 この記号は手動写植機の円熟期である1980年代から1990年代前半にかけ、雑誌や漫画の台詞などで頻繁に使われていました。写研の電算写植機にも「一般記号 SAA1 No.244」として登録されていますが、DTPの普及によってあまり見かけなくなりました。

補足
 この記号の名称についてネット上で検索をかけると「写植記号BA-90」として(先頭に“写植”をつけて)取り上げられていることが多くありますが、この記号は写植システム専用ですので、名称の先頭に敢えて分かりきった情報である「写植」を付ける必要はありません。
 また、写研の書体見本帳によると、記号類を印字するよう発注する場合について「記号を指定の場合は、『記号SA-1-12』のように、『記号』をつけてお書きください。」とありますので、このルールに従って「記号BA-90」と呼ぶのが本来であると筆者は考えます。

●イワタアンチック体と記号BA-90

 2002年、老舗活字会社だった「イワタ」が発表した書体「イワタアンチック体」(※リンク先はPDF)には、記号BA-90とよく似た笑顔の記号が収録されています。

イワタアンチック体の記号
イワタアンチック体に収録されている記号
写研の記号BA-90(左)と記号BA-88(右)にそっくり……というか、そのまんま!?

 写研が原字を制作したBA-90の複製は許されない筈です。写研とイワタとの間で何かあったのかも知れませんが、真相は不明です。

【管理人のコメント】

 この印象的な記号は、漫画好きの方や昭和50年代までに生まれた方なら一度は見たことがあるかも知れません。
 記号BA-90の魅力は、その独特な味わいにあると思います。普通のスマイルマークを描くよりもあやしくて、ちょっと無気味で、お茶目で憎めない表情をしています。真面目な石井書体と一緒に使うと何とも言えない脱力感に包まれます。未だ記号BA-90を超える脱力感の笑顔マークに出会ったことがありません。
 写植(写研)だから使えないというわけでもなく、写植書体をアウトライン化してデータを届けてくれる業者もありますので、この記号を使いたい方は利用してみるのもいいかも知れません。
 (余談ですが、私が描いている漫画『パンタ・うさの物語』の、小学1年の時に描いたものにもこの記号が登場しています。2002年用の年賀状にも使っています。筆者お気に入りの記号です。)


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