書体のはなし

●ことりのことり。/あや* 2003年

●自分で和文書体を作る時代

 この書体は、書体メーカーによって制作されたものではなく、フォント関連のウェブサイト「ことりのことり。」の管理人である“あや”さん、つまり個人によって作られたものです。
 1990年代中期、1バイトフォント(いわゆる「半角文字」)作成ソフト『Fontographer』の出現によって、個人でもフォントを制作できるようになり、“カタカナフォント”に代表される私家製フォントが爆発的に生まれた、いわゆる「フォントブーム」が起きました。欧文、ひらがな、カタカナ、絵文字など、様々な書体が生まれましたが、1バイトがゆえに入力が面倒で、仮名漢字変換ができないなど、いくつか難点もありました。
 それから数年が経ち、Windows用2バイトフォント(「全角文字」)作成ソフト『TTEdit』『OTEdit』が(安価に2バイトフォントが作れることもあって)脚光を浴び、今度は個人による2バイトフォント作成に人気が出始めました。
 この「ことり文字ふぉんと」はその代表的な存在といってもよく、その可愛らしい字面のため、『もえたん』をはじめとする書籍やCDのジャケット・ブックレット、新聞広告、多くのウェブサイト、同人誌などで使われるなど人気書体になりました。

●メーカーにはできない可愛らしい手書き感

 この書体の特徴は、メーカー製の丸文字書体ほど幾何学的な整理がされず、手書きの味わいが残っていること、そして何といっても可愛らしいことだと思います。女の子が書いた文字がそのままフォントになったようなデザインです。
 個人制作であるにも関わらず漢字が第二水準まで収録され、記号類もほぼ全て網羅されています。制作者のあやさんによると、紙にサインペンで描いたものをスキャニングして、ソフトでフォント化したということでした。

●“フリーフォント”と使い手のマナー

 なお、当初のことり文字ふぉんとは無断商用使用があとを断たず、2005年から商用使用を禁止、2006年10月から配布停止となっていました。手書き風フォントの代表格といってよい書体だったのでその影響は大きく、フォント利用に当たってのマナーについて深く考えさせられる出来事でした。
 それから約3年、2009年8月12日に輪郭を大幅に修整した有料フォント「ことり文字ふぉんとPro」として甦りました。

ことり文字新旧比較
ことり文字ふぉんと新旧比較
※旧版は主要な文字に輪郭修整が入る前のものを掲載しています

 図のように、拡大しても輪郭がガタガタにならないよう丹念な修整が施されています。書体としての完成度が上がったPro版は特に商業など高精細な印刷でその魅力を発揮することと思います。

【管理人のコメント】

 この書体は一時期、個人用・商用を問わず爆発的に使われました。個人制作であっても、良いものは良いとして世の中の多くの人に愛されるものであると思います。
 私はこういう可愛らしい字が書けないので、一層魅力を感じます。「この書体なら自分の言葉を伝えてくれそう」と思わせる力があります。一人で作り上げた書体であるだけに、このような手書き風の書体で《日本語が普通に打てる》ことはありがたいことです。これからもこの書体をはじめとして、個人で制作されている2バイトフォントに注目していきたいと思います。
 また、どんな書体にも言えることですが、利用規約(ReadMe)をよく読み、遵守した上で利用するという守るべきことが今後さらに浸透することを心から願っています。

ファミリー

※ことり文字ふぉんと(旧)は商用使用できません・2005.8.1〜

書体名
発表年月日
ことり文字ふぉんと(旧・フリー版) 2003.1.7
ことり文字ふぉんと細(旧・フリー版) 2003.12.17
ことり文字ふぉんとPro 2009.8.12
ことり文字ふぉんとPro-L 2009.8.12

→こばなし・DoCoMoのカタログとことり文字ふぉんと

→こばなし・新聞広告とことり文字ふぉんと

→こばなし・TinklingBell 回顧録


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