●モリサワを代表する明朝体
写真植字機用の明朝体としては、写研の「石井明朝体」「本蘭明朝体」がよく知られていますが、もう一方のモリサワにも、当然のことながら明朝体が用意されています。
モリサワの明朝体には、金属活字書体名のもの、「ミヤケ・アロー」「光朝」などディスプレイ書体(以上は本稿では解説しません)、書体名が英数字のもの、そして今回取り上げるリュウミンがあります。
まずは、創業当初から開発されてきた、書体名が英数字のものについて解説します。この明朝体はモリサワ書体としては歴史の古いものであり、見本帳や数字だけを見ても体系的に把握できませんが、大別すると太さと漢字の組み合わせが7種類、仮名の特徴が4系統あります。
モリサワ明朝体分類表
仮名の特徴/太さ
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細
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中
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中
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太
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太
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見出
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見出
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石井明朝体OKL系統 |
AC1
1956
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-
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ABB1001
1973
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A1
1960
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-
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-
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MA131
1975
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石井明朝体NKL系統 |
- |
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ABB1
1960
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-
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-
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-
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日本活字明朝体系統 |
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ABBX501
1974
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ABB31
1971
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-
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-
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モリサワ独自系統 |
-
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-
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ABB1031
1973 |
A31
1963 |
A101
1964
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MA1
1961
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MA31
1961
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※亮月写植室調べ。モリサワ公式の分類を表すものではありません。
中明朝体AB1(1955年)、中明朝体ABB101(1962年)は不明。
太さが同一でも漢字が異なるものは、同一ウェイトでも別扱いとした。
これらは、ウェイトによってその系統の仮名があったりなかったり、再現度(?)が高かったり低かったりと、モリサワ独自系統の仮名を持つものを除いて秩序立ったものではありませんでした。書体名の数字にも規則性はありません。このように無秩序な状態が、モリサワが書体の開発を開始してから長く続きました。
上記の明朝体が一通り発表された後、1982年に新しく発表された明朝体が「リュウミン」です。
リュウミンのルーツは、1959年にモリサワの創業者である森澤信夫氏が知人の活字メーカー「森川龍文堂」の森川健市社長(当時)から同社の書体「新體明朝」の見本帳を譲り受けたことにあります。
モリサワはこの見本帳に掲載されていた四号の明朝体活字を基にして、新しい明朝体を開発することにしました。“龍文堂の明朝体”という意味で「リュウミン」と名付けました。
新體明朝を基に試作された明朝体は、1971年と1977年に試験文字盤が制作され、写植業者に使用を依頼、得られた要望を書体にフィードバックすることを繰り返して完成度を高めていったといいます。
→参考:モリサワ『書体見聞 第三回 リュウミン』
●リュウミン誕生と3種類の仮名
こうして制作されたリュウミンは、まず1982年に最も細いウェイト「リュウミンL」が発表されました。一般的な用途の大がな「KL」、書籍の本文向けの小がな「KS」の2種類が当初から用意されていました(書体コードはそれぞれ龍L、龍だったが、のちのファミリー化を機に龍L-KL、龍L-KSに変更)。
開発の過程でファミリー化が決定していたため、1985年に「リュウミンR」と「リュウミンM」、1986年に「リュウミンB」と「リュウミンH」、1992年に「リュウミンEB」と「リュウミンU」、1993年に「リュウミンEH」が順次発表され、リュウミンファミリーの完成を見ました。
1986年には、築地体から石井明朝体OKLの流れを汲むオールドスタイルの仮名「KO」が追加されました。
「リュウミンKO」は「太明朝体A1」の仮名を基にデッサンを行い、新たに描き起こされました(小塚昌彦『ぼくのつくった書体の話』p.170)。
リュウミンの漢字やKL、KSがそうであるように、「石井明朝体OKL」に比べてあっさりしています。書道に精通した石井茂吉氏が制作したOKLを基準にして見ると、リュウミンKOは強弱の不自然な箇所があり、整理されすぎていて、繊細さや情緒が少ない嫌いもあります。しかしそれはリュウミンの漢字との混植を十分考慮した結果でもあり、一つの解釈として見ることもできます。
●手動写植、電算写植、DTPとともに
リュウミンファミリーは全てのウェイトが手動写植機用の文字盤として発売され、電算写植機(モリサワ独自の組版システム)用のデジタルフォントも発売されましたが、次の時代の仕組みにも真っ先に対応しました。
日本語DTP元年とも言われる1989年、「細明朝体」(リュウミンL-KL)が、初の Macintosh 用の和文 PostScript フォントとしてアップルコンピュータジャパン社のレーザープリンタ「LaserWriter II NTX-J」に搭載されました。
これ以降、モリサワからは、写植機で使用されていた書体が PostScript フォントとして発売されていきました。ライバルの写研が「ソフト(書体)とハード(写植機)は一体である」として PostScript フォント化を辞退したという背景も手伝い、それまで写植でのシェア第2位に甘んじていたモリサワは一気に巻き返すことになります。
1993年からはリュウミン-KLの各ウェイトが順次 PostScript フォントとして発売され、爆発的に普及しました。また、Macintosh のOS「漢字Talk7」から「MacOS 9.2.2」までには TrueType の「リュウミンライト-KL」が搭載され、DTPに携わる者だけでなくMacユーザーなら誰でも使える書体になりました。
その後リュウミンは、1999年に NewCID フォント、2002年には OpenType フォント化を遂げ、同年「KS」と「KO」がDTP用デジタルフォントとして復活しました。
OCF・CIDフォント時代の「L リュウミンL-KL」は、従属欧文が「Times」という若干小さく太めの書体からの流用で太さが全く異なり(欧文が太い)、初期のDTPのようなぎこちなく素人臭い版面が散見される時代がしばらく続きました。しかしこれも OpenType 化の際に解消されました。
また、OpenType 化によって収録文字種数が飛躍的に増え、これまで作字しなければならなかった漢字等も出力できるようになりました。
このように、リュウミンは時代に即したフォントフォーマットに対応しつつ、DTPの第一線で活躍してきました。
リュウミンファミリー(一部)
●中庸さの強み
リュウミンはファミリー展開を前提とした現代的な設計思想の明朝体ですが、活字書体に端を発しており、手書きに近く自然でバランスの良い骨格とシャープですっきりとした輪郭を有しています。見た目の印象は写研の「石井明朝体NKL」に似ていますが、石井が細部に強弱の表情を持つ一方、リュウミンは線質が整理されてあっさりしています。
リュウミンは骨格が素直で癖がなく、表情が多すぎず少なすぎず、中庸で読みやすい明朝体です。書体としての特色はありませんが、無理な設計をしていないため、どのような用途でも無難にこなすことができます。
リュウミンの仮名が3種類あることは先述の通りですが、その後モリサワからリュウミンのウェイトに合わせた仮名書体「秀英3号かな」(1987〜1993年)と「秀英5号かな」(1994年)が発表され、より趣のある雰囲気も表現できるようになりました。
社外の仮名書体と混植するベースの書体としても最適で、モダンな仮名も活字由来の仮名も違和感なく使用することができます。これも中庸な明朝体だからこそできることなのです。
仮名書体との混植例
現在リュウミンは、最もよく使われる明朝体としての地位を揺るぎないものにしています。金属活字の遺伝子を受け継ぎつつ、現代的な設計思想を取り入れ、先陣を切って新しい仕組みや技術を受け入れてきた“偉大なる中庸”です。これからも明朝体の標準として、長く愛され続けていくことでしょう。
●ファミリー
書体名/書体コード
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発表年 |
リュウミンL/龍L-KL、龍L-KS、龍L-KO |
1982
KOは1986 |
リュウミンR/龍R-KL、龍R-KS、龍R-KO |
1985
KOは1986 |
リュウミンM/龍M-KL、龍M-KS、龍M-KO |
1985
KOは1986 |
リュウミンB/龍B-KL、龍B-KS、龍B-KO |
1986 |
リュウミンEB/龍EB-KL、龍EB-KS、龍EB-KO |
1992 |
リュウミンH/龍H-KL、龍H-KS、龍H-KO |
1986 |
リュウミンEH/龍EH-KL、龍EH-KS、龍EH-KO |
1993 |
リュウミンU/龍L-KL、龍U-KS、龍U-KO |
1992 |
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