講演の様子 左から原研哉氏・永井一正氏・後藤繁雄氏。 13時から「グラフィックデザインの未来」を聴講。ポスター展にも人が多くなってきた。聴講生は学生と思わしき人が大半の様子で、自分達は年長組に入りそうだ。でも筆者は美術系の学校を卒業した訳ではないので彼(彼女)達と同じ新鮮な思いで臨むことができた。(※以下、聴講のメモをもとに編集) 講師は永井一正氏・原研哉氏・後藤繁雄氏(司会)。1950年代に概念が形成された日本のグラフィックデザイン(それまでは図案と呼ばれていた)は、準備(1950年代:日宣美設立、グラフィックデザインを知らしめる)→実践(1960年代:東京五輪など)→爆発(1970年代:大阪万博、札幌五輪、沖縄博など)という流れを辿り、産業の仕組みが1970年代以来変わっていない中でデザインも限界に達したという。そういった歴史と認識の中で今後のグラフィックデザインはどうあるべきか・どうなるかをあきらかにしていくという内容だった。 原氏は、「“デザイナー”ではなく“デザイン”という概念を持って生きることが大切で、一人一人がその概念を持つことで社会が変わっていく。2000年代の世の中は行き詰まっている(混沌)が、デザインがそれを解きほぐしていけるのではないか。お金や経済とは別の観点をデザインが作っていかなければならない。一日先のような少し未来ではなくて、もっと大きな距離で未来を見なさい」(要約)と話された。 永井氏は、「日本人の感性は四季が豊かな自然と密接にあり、宇宙の摂理を体現しうる環境にある。元からあったものを繰り返していて(日常)、その中にデザインが潜んでいる。そこに“覚醒”(奥深くにある叡智に触れ感動すること)がある。合理的でないものが今世界で必要とされている。日本の土壌や風土(混沌・曖昧・自然)をもとにデザインを作り出すのがよいのではないか。明晰さを追求する世界は脆い。光だけでなく闇も取り上げる、その混沌さが覚醒に導く。理解し難いものにときめきがある。その奥に何が隠されているかを掘り起こすことが大切」(要約)と話された。 抽象的な部分も多く難解な講演ではあったが、混沌という理解し難い所に人々の心を動かすものがあり、一人一人がデザインの概念を持ち、感動する(させる)ことによって社会を変えていけるという未来への希望が見えた2時間だった。 ミッドタウンタワーを出て六本木駅に向かっていると、白ジャケットの男性が追い抜いていった。永井一正氏だった! 永井氏は向こうから来た男性と挨拶を交わし、再び歩き始めた。私達はちょうど永井氏の「得意な分野が身を滅ぼす」という講演での言葉について話していて、「自分達は文字で滅ぶんでしょうか」などと話しているときに永井氏と暫く並行したのでちょっとどきどきした。しかしやがて見えなくなってしまった。「やっぱり普通の人と雰囲気が違う!」と顔を見合わせる。思いがけぬ三度目の“奇跡”だった。
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