亮月写植室

ミニレポ
写真植字機、空を飛ぶ
2019年2月〜3月


●再び写植室を作ることになろうとは

 2017年冬、自宅の新築構想が持ち上がり、1年以上をかけて計画から設計、施工と進んできました。
 幸い新居にも写植室を設けることができました。今後一生暮らすであろう場所なので、PAVO型の写植機を追加で入れられるような面積とレイアウトを確保しました。
 これまでの写植室は建築として必要最小限の造作しかしていなかったため、天井はなく屋根裏が剝き出し、壁には断熱材が入っていないという状況で、夏はそこに居られないほど暑く冬は暖房しても寒いという過酷な環境でした。
 今度は屋根と壁に断熱材をしっかりと施工してもらいました。床は多くの機材の重みに耐えられるよう、コンクリートの上にフローリングブロックを直貼りしてもらいました。

 “新社屋”と呼びたくなるような新しい写植室が竣功し、2019年1月から徐々に資料や備品、文字盤を旧写植室から運び出していきました。自分の時間は殆ど、暮らしのための物品と同時進行で引越し作業ばかりしていました。重い荷物を車に積み、何度も何度も往復しても終わらない……という状況でした。体はぼろぼろですが、少しずつ見えてくる新しい写植室の姿に希望は膨らんでいきました。

車のトランク一杯の文字盤

●残された写植機をどうするか

 最後に残されたのは、自力では運ぶことができないものでした。
 四畳半に写植機が2台。PAVO-JVSPICA-QD です。

移動を待つPAVO-JV

 SPICA-QD は60kgなので二人いれば持ち運ぶことができますが、PAVO-JV は素人ではどうすることもできません。
 PAVO型の写植機は運搬のために本体(文字枠を支える鋳物の台まで)と両袖の引き出し、電源部が分解できるようになっていて、さらに本体の台の鋳物部分の四隅にはねじが切ってあり、「運搬棒」なる金属の棒をねじ込むことができるようになっているのです。運搬棒をねじ込んで、それを持って御神輿のように運ぶのです。

写植機の運搬棒

 しかしその行為も素人では危険です。一人当たり60kg超を支えることになるので、転んだら一巻の終わりです。そのため、重量物を運搬できる業者さん(ピアノ運送業者)に相談し、現場を見ていただき、搬出入をお願いしました。
 お借りした運搬棒をPAVOにねじ込み、その日を待ちました。

運搬棒をねじ込む

運搬棒をねじ込む

移転を待つ写植機たち

 現在の写植室は2011年1月に完成しました。広く知らせず、個人で細々とやっているにも関わらず、これまでに国内外から40名もの方が訪ねてくださいました。ここから始まったご縁も多くあります。初めて自分用の写植機を導入し、写植について実感を持って深く知ることができました。全国の方から沢山の文字盤や資料、そして写植機を頂き、写植への思いを引き継ぐことができました。真夏の蒸し暑い中も、年末の冷たい中も、このちいさな一室で写植とともにある日々でした。実り多き、そして思い出深い8年間でした。

 さようなら! 思い出の写植室
 ありがとう! 初めての写植室

 こうして、旧亮月写植室の時代は幕を降ろしました。

●そして、搬出!

 2019年2月7日。晴れ。
 亮月写植室前に大きなユニック(クレーン付きのトラック)とリフト付きのパネルバンが1台ずつ到着しました。早速業者さんが写植機を部屋から運び出しました。

写植機の搬出
※写真は画像処理してあります(以下、人物については同じ)

引き出しが残された写植室

 あっけないほど簡単に移動できてしまい、心に穴が開いたような気持ちになりました。しかしこれも新社屋での活動への希望の第一歩でもあるのです。
 一方、外では大掛かりなことになっていました。

PAVOを吊る準備

 写植機をフォークリフトのパレットに載せ、それにスリングベルトを掛けてクレーンで吊るのだそうです! PAVO の足元は引き出しの天板の穴にはまるよう、小さな突起になっています。重さが一点に集中してパレットを壊さないよう、クッションのようなもので養生してあります。
 業者さんは少しだけ浮かせてみてはスリングベルトや写植機の位置を調節することを何度も繰り返し、バランスを見極めていました。とても丁寧な仕事です。
 そして……

PAVO-JV、空を飛ぶ

 写植機が空を飛んだ!!

 300kgの巨体が軽々と、家の2階ほどの高さまで浮かび上がったのです。
 2011年にこの機械が写植室に入った時は全て人力で、業者さんがベルトを肩に掛けて担いで運んでいたので、このような状態は見たことがありませんでした。とても驚き、そして感動しました。
 PAVO-JV とともに、SPICA-QD もパネルバンに無事収められました。

空になった写植室

 すっかり広くなってしまった“旧”写植室。PAVO-JV が置いてあった場所だけ床の色が黒ずんでいます。8年間、色々なことがありました。その月日の長さをしみじみと思いました。

●あたらしい写植室!

 業者さんとともに“新社屋”へ向かいました。
 こちらはユニックなど大掛かりな機材を使わずとも運び入れられるように設計したので、人力での搬入となりました。

人力で写植機搬入

 あんなに重い写植機を二人で運んでいるんですよ。凄いと思いませんか?
 しゃがんだ状態でスリングベルトを運搬棒に通し、肩に掛けて立ち上がるような方法だったと思います。こうして写真を撮っているだけなのが申し訳ないほどでした。

写植機移転完了

 PAVO、SPICA とも無事に据え付けが完了しました。業者さんは仕事を終えると手早く片付け、颯爽と次の現場に向かっていかれました。丁寧で手際が良い、まさにプロフェッショナルでした。本当に本当にありがとうございました!
 あとは運搬棒を取り外し、その部分の茶色い覆いを取り付けるだけです。

写植機の動作確認

 搬入した日のうちに PAVO-JV が動作することを無事に確認できました!
 執筆している2019年3月8日現在、文字盤、資料、機材の搬入は終わっていますが整理にかなり時間がかかりそうです。暗室も手付かずですので印字はできませんが、いつか必ず復活させます!

【完】


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