※見出しは写研の「大見出しアンチック(KE-A)」です |
●写研/石井茂吉 | 1935年 |
●金属活字時代、ゴシック体用の仮名が発祥 アンチック体は明朝体系の骨格を持ちながらも画線が均質な太さで、太いウェイトの明朝体の仮名とは異なり、太さにメリハリがあまりないのが特徴です。 ●写植用初のアンチック体 今回取り上げる写研のものは写植用として最も古いアンチック体で、1935年に誕生しました。
また、3種類の字面の大きさがあり、漫画に使われるのは一般に「中見出し」(KF-A)です。「た」と「だ」に微妙な形の違いがあるなど、確かに人が描いた文字であることが判ります。漢字書体と一番よく馴染むのがこの中見出しで、一部の出版社が採用していた「大見出し」(KE-A)では漢字に対して仮名が大きめです。 手動写植機用のものとしては、モリサワからも同様の書体が発売されており※、一部の出版社の漫画に使われていました(講談社など。『超くせになりそう』『のだめカンタービレ』などで確認)。字形は写研のアンチック体によく似ていますが、多少モリサワらしい味付けがしてあり、カタカナが大きめです。後年になってパーソナルコンピュータ用のデジタルフォントとして復刻され、「A1明朝」を下敷きにしてデザインされた「アンチックAN」ファミリー(ウェイトのアルファベットが付く)やAN3、AN4とともに発売されました。 ※モリサワの手動写植機用アンチック体 ●漫画の吹き出しや辞書の見出しに使用 写植の書体数が今より少なかった1970年代前半辺りまでは、新聞広告などで特太明朝体の仮名をアンチック体に組み替えてより力強い表現を求めることもありましたが、現在のアンチック体の用途は漫画の吹き出しや辞書の見出しが殆どです。
漫画原稿は手描きが基本であり長らく版下作業が必要でしたし、手動写植機は書体の混ぜ組みが簡単であるということもあり、1990年代中盤の DTP 普及後も手動写植機が活躍できる場のひとつでした。近年は漫画専用の電算写植(組版システム)を導入している出版社もありますが、いずれにしても漫画出版物において写研は大半のシェアを占めていました。 ●DTP化で写研アンチックの使用頻度が激減 ところが2000年代に入り、パーソナルコンピュータ用として、アンチック体を模した漫画用のフォントが相次いで発売されました。既存の仮名書体を流用したものもあれば、新しく字母を開発したものもあります。但し字形は写研のアンチック体とは異なる印象のものが多く、商業印刷でではあまり見掛けませんでした。
そのような状況の中、先述のモリサワが2005年にパーソナルコンピュータ用デジタルフォントのアンチック体を発売しました。漫画出版物の DTP 化は確実に進展しており、モリサワのアンチック体の雰囲気が写研のアンチック体に似ていることもあって、以降徐々に写研のアンチック体からの置き換えが行われました。その結果、写研のアンチック体を使用している漫画作品は激減しました。 アンチックの語源は英語の〈antique〉。古風な、時代を経た、という意味を持ちます。アンチック体はまさに、和文書体発生の過渡期に生まれた“アンティーク書体”と言えるのではないでしょうか。 ●ファミリー ●は手動写植機専用書体です。
※写研『文字に生きる』では「アンチック体」が1935年としているが、個別の発表年については不詳。 →書体のはなし |