書体のはなし モトヤアポロ

●モトヤ/山田博人 1969年

●活字はよみがえる

 この書体は、1922年に金属活字製造会社として創業し、現在デジタルフォントメーカーである「モトヤ」の製品です。
 モトヤは1952年の「明朝体M1」を皮切りに、独自の書体を開発してきました。元々「モトヤ楷書」などを写研やモリサワといった写植機会社に提供していたため、活版印刷でなくてもモトヤの書体を見ることができました。デジタルフォントとしては、ワードプロセッサ専用機にモトヤの書体が搭載されている時期もありました。
 出版業界全体のデジタル化の中で、モトヤは金属活字の製造・販売が1996年に終えた一方で、パーソナルコンピュータ用のデジタルフォント開発を進めてきました。

 1969年、和文タイプライター用の本文活字として「アポロ2」「アポロ8」(モトヤでの書体コードはA2、A8)が制作されました。作者はモトヤ社員で書家の山田博人氏です。漢字はモトヤ明朝体を原型とし、エレメントをややすっきりとさせた形状でした。タイプ活字としての用例は、筆者は確認できていません。
 その後モトヤはパーソナルコンピュータ用のデジタルフォントの開発に参入し、アポロはデジタルフォントとして甦りました。
 タイプ活字の「A2」「A8」と比較して、懐をより広く、エレメント(文字の構成要素)を幾何学的に、特に撥ねを細くし、現代的で風通しの良い字面に生まれ変わりました。

モトヤ明朝・アポロ比較
A2の出典:『文字の解体新書』モトヤ/2009年

 明朝体の漢字や「タイポス」のように、縦画は太く・横画は細くしたことによって視認性に優れ、字画を幾何学的に処理することで明るく親しみやすい印象があります。細いウェイト(書体の太さ)は優雅で軽やか、太いウェイトは力強くありながら明朝体ほど堅苦しくない印象です。
 デジタルフォント化に伴い、ウェイト(太さ)展開をしてその活躍の場を広げてきました。派生書体として、ステンシルのように画線が重なる部分に隙間を施した「モトヤステンシルアポロ」(2007年10月発売)と、エレメントの先端を丸くした「モトヤ丸アポロ」(2008年3月発売)も誕生しました。
 これらアポロシリーズは、新聞広告や雑誌を始め、地図やテレビ放送の字幕にも頻繁に使われています。

モトヤアポロ派生書体

 写植の文字盤にのみ姿を遺す「ピコ・カジュアル36」とは対照的に、タイプフェイス(書体のデザイン)の容れ物が変わったことで日の目を見た書体の好例と言えるでしょう。

●ファミリーと来歴

書体名/書体コード
発表年
アポロ2/A2(タイプ活字) 1969
アポロ8/A8(タイプ活字) 1969
アポロ2〜8(デジタルフォント)  
アポロ1(デジタルフォント) 2004.1

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