※任意歯送りは1~4Hが操作ハンドルの手元、5~28Hがラチェットの目盛りにより設定
●納入10000台を達成した機械式の銘機
森澤信夫氏が初めて独自に設計したMC型はMC-2、MC-3、MC-5と数年毎に改良され、順調に進化を遂げました。その集大成が1967年に発表されたMC-6です。
MC-5を直線的にしたような外観で、より現代的なデザインになりました。
機械式とはいえ、一部の機能は電動化されています。文字枠固定、シャッター、ルビ/電圧切り換えペダル、シャッターなどです。
操作性や性能は更に向上しています(馬渡力『写真植字機五十年』を基に筆者加筆)。
・変形レンズは変形1番(90%)から4番(60%)まで長体・平体別に本体に内蔵され、変形レンズホルダーをスライドさせて簡単にセットできるようになった。
変形レンズホルダー
・斜体レンズは機械外部から挿入できるようになった。
・ハンドルに電気接点を組み込み、文字盤の固定を電磁石で行うようになった。
・従来はばねの力により回転させていたシャッターを、モーターの回転により行うようになり、シャッター速度の精度が大幅に向上した。
シャッターユニット
黒い扇形のものが回転することで光路を遮る。
MC-6は写真植字機の主流が電子制御式へと移行してからも生産が続けられ、1982年9月には納入10000台を達成しました。
機能には直接関係ありませんが、本体を載せる机は時代により変遷しています。前期型は無垢の木製、後期型は鉄の事務机のようなものです。
●稼働するMC-6のすがた
MC-6は稼働する個体がありますので、取材することができました(大阪DTPの勉強部屋様。2012.2.21、5.26~27取材)。本機の主な特徴について解説します。
・主レンズ
MC-6は主レンズのターレットが2段式になっています。上段が7~20Q、下段が24Q~62Qと70~100Q用拡大レンズです。ターレットは電動式ではなく、ターレット上の突起に噛んだ爪を外して手で廻すようになっています。
どちらかのターレットだけを使用するため、レンズが入っていない素通しの筒が上下段にそれぞれあります。
レンズターレットの下には写口と呼ばれる黒い筒があり、文字盤の下から当たった光源ランプの光をレンズ(上)方向へ導いています。主レンズの上には印画紙を収めたマガジンがあります。
・横用ラチェット
左から、横用ラチェット・送り歯数指示目盛台・変形操作目盛板です。これらのすぐ上にはスケールがあり、横方向のおよその印字位置(mm単位まで直読可)を示します。
横用ラチェットは、横方向の印字位置の決定と把握をするためのものです。円形の金属に歯車が刻まれており、すぐ右にある2つの爪が歯車に噛むことで歯車の回転を制御しており、送り動作が行われます。このラチェットの歯1つ分が送り単位の「1H(1歯)」です。1周200Hで、白い部分には10H毎に目盛りがあり、印字位置の目印をダーマトグラフなどで書き込めるようになっています。
このラチェットはぜんまい式になっており、蓄えられた力で動作します。改行等で行頭側へ印字位置を戻す場合、ラチェットに噛んでいる爪を解除します。ぜんまいの力によって自動的に戻ろうとしますが急激に移動して危険なので、ラチェットに2箇所あるつまみのどちらかを持ちながら「ぐるぐるぐる……」とゆっくり移動させます。
送り歯数指示目盛台は送り量を設定するためのものです。ここから左にある横用ラチェットに棒が伸びていて、ラチェットの歯を押さえている爪に連動しています。設定した歯数に応じて爪が解除されるタイミングが変化するようになっています。本機では5~28Hが設定可能です。主ハンドルを押し下げた場合、設定した歯数が印字の直後に送られますが、29H以上の送りが必要な場合は複数回に分けて行います。
変形操作目盛板は、変形レンズホルダーのスライドに連動し、どの変形レンズが選択されているかを示すためのものです。赤色の目印の位置を見て、セットされている変形レンズを把握できるようになっています。空(変形なし)、長体1〜4番、平体1〜4番。
・縦用ラチェット
横用と同様に扇形の目盛りの位置で送り歯数を設定します。ラチェットの左上にある金属の出っ張りが「縦1歯戻しレバー」です(横用ラチェット周辺にも横1歯戻しレバーがある)。頻繁に押されたため周囲の塗装が剝がれています。
・主ハンドル
モリサワの多くの機械式機種の場合、印字を行う「主ハンドル」(写研では「主レバー」)は2本あります。左が横用、右が縦用。握りのてっぺんのMマークがはモリサワの旧ロゴマークです。
主ハンドルの下に出ている金属の棒は「空送りハンドル」で、送り歯数指示目盛台で設定した歯数を空送りします。
主ハンドルを押し下げる場合、空送りハンドルと接する位置辺りで文字枠が固定され、更に押下するとシャッターが切れ、空送りハンドルも一緒に押し下げることで指示された歯数が送られます。印字と送りを機械的に同時進行できる優れた機構ですが、例えば28Qより大きい全角文字をベタ組みで印字する場合、更に空送りハンドルなどで送ってやらないと文字同士が重なって印字されてしまうことになります。
56Qの文字のベタ組みの場合、56=14×4、18×3+2、20×3−4などと考えます*。送り歯数を20Hに設定したときは、主ハンドルを押し下げて印字した後、さらに空送りハンドルを2回押し下げて合計60H送っておき、4H戻すことになります。(*MC-6は大きな歯送りを設定しても精度が出なかったようで、一度に28Hはあまり使わなかったとのこと。大Q数ではツメ打ちの場合が多いので、17H×3などで印字して現像してみて字間を測って送りを再調整していたとのことです。この段落については、大石十三夫さんのご教示を頂きました。ありがとうございました!)
主ハンドルの根元に立ち上がっている円弧状のレバーは「1歯送りレバー」です。側面の「微動送り調節ダイヤル」で送り歯数を1~4歯に設定可能です。
この写真では非常に見にくいですが、縦横の主ハンドルの間に「シャッターレバー」があり、送りを行わず印字だけすることができます。
主ハンドルの左に付随している頭部分が丸く見える部分が文字枠を固定する「レバースイッチ」です。例えば横罫を連続印字する際には、左側の横用主ハンドルを押し下げる際に親指でその部分を右の主レバー方向へ押さえたままにして印字すると、ハンドルを上に戻しても文字枠は固定されたままなので、必要文字数分押さえたまま連続で印字することができます(このことについても大石十三夫さんからご教示いただきました。ありがとうございました!)。
・文字盤・文字枠
MC-6 には、主要な文字などを収録した文字盤12枚分がひとまとまりになった「書体文字盤」2組と、記号や英数字、使用頻度の低い漢字などを収録した「バラ文字盤」8枚を装着可能です。
書体文字盤の交換
バラ文字盤
・点示ロールとマガジン
点示ロールの奥(写真では左側)に、印画紙の入ったマガジン(把手が付いた黒いもの)を装着します。点示ロールとマガジンは同じ台座に乗せられ、縦・横送りとも実寸で(印画紙上の印字位置と同じ距離だけ移動して)点示します。
●その他の機能、仕様
馬渡力『写真植字機五十年』1974.7.24発行/p.204、モリサワ『MC-6取扱説明書』1973.10発行より。
寸法 |
幅1310×奥行760×高さ1400mm |
質量 |
230kg |
所要床面積 |
幅2000×奥行760mm |
機械内容 |
主レンズ |
20本(7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、18、20、24、28、32、38、44、50、56、62Q)※70、80、90、100Qは拡大レンズ併用 |
変形レンズ |
4種(No.1~4) |
文字枠収容文字盤 |
書体文字盤 2組
バラ文字盤 8枚 |
収容感材寸法 |
305×255mm |
ファインダー |
有 |
点示板 |
点示ロール |
電源、光源 |
AC100V 250W |
環境条件 |
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価格 |
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