連続ドキュメンタリー
さようなら写植。


第2回 5月17日・『さよならの前に』

 馴染みの写植屋さんへ。社員の方に写植室を開けて頂き、早速印字にかかった。主に、亮月最後の写植作品となる予定の『アルケミスト15』(亮月製作所で発行している個人雑誌)で使う文字を打つ。その裏表紙の文字も必要だったが、15字×36行の長文はさすがに社長に打って頂いた(裏表紙はこちら)。30年近くになる歴を持つ写植オペレータである彼女の手から、軽快な機械音を立てながら一文字ずつ印字されるのに見とれていた。格好いい。ずっと憧れの職業だったんだ……。そう思うと、このひとときが切なく感じられた。円組みや斜体、ずっと使いたかった書体「石井中明朝OKL」(「書体のはなし」参照)の印字等、写植らしいことを気の済むまでやった。それが写植に対して出来る感謝の意の表し方だと思ったのだ。
 印字が終わった頃に隣のMac室へ行くと、会社の皆さんは最近買ったという最新のeMacで遊んで(?)いた。MacOS Xも使えるという。……何という皮肉だろうか、そのeMacが置かれている丈夫な机こそが、出版印刷界を風靡した電算写植である「サイバートH202」の作業卓だったのだ……。本体のロゴが悲しげだった。

在りし日の電算写植機「サイバートH202」(写研カタログより)。700万円。
折り込みチラシやカタログ等の複雑な組版を得意とした。
左の青い部分は8インチフロッピーディスクドライブと処理部。
机の上のタブレットは、手動写植の文字盤と同じ配列の文字キーになっている。
右の画面で入力を行い、左の画面に移してレイアウトを確認する(らしい)。
その左にはプリンターがあるが、ドットが荒く、体裁が確認できる程度。

→第3回 5月24日・『思いを馳せる』


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