書体のはなし 見出ゴシック体MB101

●モリサワ/森輝 1974年

●もっと太い見出し用ゴシック体を

 モリサワの見出し用ゴシック体には「見出ゴシック体MB31」(1961年)と「見出ゴシック体MB1」(1963年)がありましたが、更に太く、大きく見える書体として生まれたのが、1974年に発表された「見出ゴシック体MB101」です。
 作者はモリサワの書体制作部門であるモリサワ文研の森輝氏ですが、この書体が生まれた経緯が詳細に記された文献が手許になく、はっきりとしたことは分かりません。

見出ゴシック体MB101原字
見出ゴシック体MB101の原字
(モリサワ『たて組ヨコ組』第55号/2000年12月28日発行、p.Y5より)

 既存の見出し用ゴシック体は文字本来の形を生かした字形でしたが、この書体はモリサワのゴシック体の特徴を活かしつつも正方形の字面いっぱいに画線が広がるようにデザインされていて、がっしりとした安定感のある骨格です。それに加え、画線の流れに引っかかりがないよう滑らかに整理され、現代的な印象も与えられています。

●力強い肉声の書体

 この書体の発売当時、書体から見たシェアはモリサワよりも写研の方が圧倒的に大きく、印刷物で見掛ける見出し用ゴシック体としては「見出ゴシック体MB101」よりも写研の「新聞特太ゴシック体」(YSEG-L)が目立つ状況にありました。

MB101と新聞特太ゴシック体の比較

「見出ゴシック体MB101」が盛んに使われるようになったのは1980年代中盤からのことです。
 印刷物を見てみると、1970年代には情緒があって繊細なオールドスタイルの明朝体「石井中明朝体OKL」(写研)、1980年代には都会的で品のあるモダンスタイルのゴシック体「ゴナ」ファミリーで見出しを組めば上手に納まるといった具合でした。
 しかし、それらの書体では表現できないものがありました。
 肉声そのままを力強く訴求したい時、肉太で武骨な「見出ゴシック体MB101」が必要だったのです。写研書体一辺倒だった広告・デザイン業界にこの書体が一石を投じました。

●DTPに対応、ウェイト展開で不動の地位に

 その後モリサワは、さらに太い「特太見出ゴシック体MBU101」(1989年)、「同H」(1991年)を発売、力強さに磨きをかけました。
 1990年代中盤には上記3ウェイトがパーソナルコンピュータ用の PostScript フォント「ゴシックMB101 B/H/U」として甦り、以降「新ゴ」と並ぶモリサワの人気書体として不動の地位を維持しています。
 現在DTPによって発行される印刷物ではかなりの頻度で見ることができます。また、使用例は非常に多く、例えばビールの広告に見られるような力強い表現をするため、あらゆる印刷物の見出しなどとして使われています。

MB101使用例
ゴシックMB101の使用例
(『おおかみこどもの雨と雪』ロゴを再現 ※細部は実際のものと異なります)

 2004年8月25日、ゴシックMB101ファミリーは L/R/M/DB という細いウェイトへと展開し、30年をかけて遂にファミリーの完成を見ました。力強い骨格でありながら細い、現代的な見出しの表現が可能となりました。一方で、細いとはいえ字面は大きく、本文として使用するにはやや苦しい嫌いもありました。
 2008年11月28日、「ゴシックMB101 小がな L/R/M」が発表され、本文用として字面が小さめの仮名が提供されました。当初の「見出ゴシック体」という限られた用途から、本文として使っても差し支えがない書体へと進化したのです。

MB101とモリサワのゴシック体

ゴシックMB101とモリサワのゴシック体
各書体見本の上段はツメ組み、下段はベタ組み。見出ゴシック体MB31が BBB1 や B101 のような字面の小ささを踏襲している一方、MB101 ファミリーは字面が大きく、見出しに特化した書体であることが判る。MB101 L(小がなではないもの)はすっきりとして現代的ではあるが、ベタ組みでは息苦しく、本文用というよりは見出し用である。小がなが発売されたことも頷ける。

 書体名の「MB101」はモリサワの写植書体に付けられたコードに由来します。「M」は見出し、「B」はゴシック体を意味します(→モリサワ書体コード簡易解読表)。見出しから本文までオールマイティに使用できる書体ファミリーにはなりましたが、「私はかつて見出し用だった」と長い歴史を静かに語っています。

【管理人のコメント】
 筆者が学生だった頃、印刷業界はDTP化の直中にありました。
 写研の見本帳を持っている一方、モリサワについてはその社名を知っている程度でしかありませんでした。写研の見本帳に載っていない書体があることにも気付き始めていました。そんな中で買い始めた Mac 雑誌には、モリサワフォントについての広告や記事が載っていて、そこから少しずつ知識を得ていきました。Mac 雑誌そのものがモリサワの書体見本のようなものでもありました。
 写研の「ゴナ」にそっくりな「新ゴ」はどうしても気持ち悪くて許せない、それでもゴシックMB101ファミリーは違和感のある文字ではなく、安心して見ていられる……モリサワ書体を見慣れていくうちに、そのようなことを感じていました。
 学生時代に初めて購入したモリサワフォントが「ゴシックMB101 H」でした。先述のように、写研書体にはない力強さが魅力的だったのです。この書体で組めば見出しの格好がつく。とても重宝しました。

 ゴシックMB101 L が発売された2004年当時、モダンスタイルではないモリサワの細ゴシック体が使えるようになったことをとても嬉しく思いました。モリサワへは「写植用の細ゴシック体をDTPでも使えるようにしてほしい」と要望していたぐらいですから……。
 8月25日に発売されたばかりのこの書体をすぐ購入し、9月5日にはいち早く「書体のはなし」の記事を発表したことを懐かしく思います。上記のように本文としては息苦しさを感じるものではありましたが、何でもかんでも MB101 L で組んでみてはそのすっきりした味わいを噛み締めたものです。

 ゴシックMB101ファミリーはモリサワ書体の特徴が昇華された書体であると、今でも思っています。

●ファミリー(初出当時の名称です)

▲はDTP用デジタルフォントのみ発売

書体名/書体コード
発表年

ゴシックMB101 L▲

2004.8.25
ゴシックMB101 L-KS▲(小がな) 2008.11.28

ゴシックMB101 R▲

2004.8.25
ゴシックMB101 R-KS▲(小がな) 2008.11.28
ゴシックMB101 M▲ 2004.8.25
ゴシックMB101 M-KS▲(小がな) 2008.11.28

ゴシックMB101 DB▲

2004.8.25
見出ゴシック体MB101(B)  1974
特太見出ゴシック体MBH101 1991
特太見出ゴシック体MBU101 1989

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