2012.5.25(金)〜30(水)大阪DTPの勉強部屋主催
於:メビック扇町
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●お詫びと訂正
『写植の時代展2』パンフレットの拙記事中、p.30 左段の「太ゴシック体B1」の発売年について記載の誤りがありました。
(誤) 1960
(正) 1961
上記の通り訂正させていただきますとともに、関係者ならびに読者の皆様にご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。
亮月写植室 桂光亮月 |
●もう一度大阪で!
2012年2月、大きな反響のもと幕を閉じた「写植の時代」展。第2回は書体をテーマとして開催されることが予め告知され、次の動きを楽しみにしていた。
その興奮冷めやらぬ同月の終わり、この催しの主催である「大阪DTPの勉強部屋」の宮地さんからメールを頂いた。「パンフレットは今回(第1回)以上のモノを作りたいと思います。亮月さんも書いてくださいね。今から面白そうなものを構想しといてください」。そして会期は5月25日(金)から30日(水)までで、今回は日曜日も開場するとのお知らせも頂いた。
写植の、殊写研書体に目がない筆者。すぐに寄稿させていただきたくお願いし、原稿の執筆に当たった。1本は筆者が写植と出会ってから現在に至るまでの写植書体に関する出来事、もう1本は前々から研究を進めていた「石井ゴシック体」ファミリーについての現時点での成果を纏めることにした。後者は資料の海から僅かな手掛かりを見付けては少しずつ点を線にしていく作業。少しずつ見えてきたその全体像にわくわくしつつ、一月半かけて原稿を書き終ええむさんの許に納めさせていただいた。
一方でとても気になっている事があった。
第2回には「文字の食卓」さんが出展されるという情報を頂いていた。文字の食卓といえば、2011年5月に開設された、主に写植の書体について独自の感覚で語られている稀有なサイトさん。同サイトが開設された当時、管理人の正木香子さんからメールを頂いて本当に驚いた。こんな方がいるものなのか、と……。以来サイトを拝見しては、どんな方なのだろうかと思案を巡らせていた。
写植と聞けば「行くしかない」、というのが毎度の事であり筆者の哀しい宿命であるが、今回はそのような事情もあり、「どんな事があっても行きます!」といつも以上に意志を強めたのであった。
●あの人がいた
2012年5月26日(土曜日)15時半、大阪着。
前回同様「メビック扇町」の一室での開催である。
入口の前でこの写真を撮ってひと呼吸置き、会場へ入った。来たことのある場所であり知っている人もいる筈だが、やはり緊張してしまう。
(写真は一部画像処理してあります)
今回も会場の中央にモリサワの機械式手動写植機「MC-6」が鎮座し、壁際には写植に関する資料と写研公式の印刷物から作成した貴重な解説パネル、そして奥には「文字の食卓」さんの展示があることが見て取れた。
受付で名前の記載をしていたところ……
「亮月さん……ですよね?」
!?
「文字の食卓の正木です。」
正木さんが受付をしていたのだ。いきなり対面してとても驚いた。
「亮月さんのサイトがなければ、『文字の食卓』を書くことはできませんでした。」
たいへん恐れ多く、「ありがとうございます……」と恐縮するほかなかった。おそらく話をすれば殆どが通じることが予想されただけに、何をお話ししたらいいのか分からなくなっていた。いつも精力的な方や貴重な状態をお持ちの方の恩恵に与ってばかりだったので、正木さんのようなことを言っていただけたのは亮月製作所時代も含めて初めてだったのだ。
●貴重な資料群に釘付け
挨拶を終え、会場の見学をさせていただいた。
入口左手側には写植に関する貴重な印刷物が並べられており、壁には写研の組版に関するルールブック『組みNOW』の複写が掲げられている。その内容を熱心に観られる方も多かった。
写研の手動写植機のカタログが沢山! 亮月写植室が保有していないものも多かったので、じっくり読ませていただいた。
リョービの「レオンマックス-1」の中国語版カタログとか、写研の最高級機械式卓上写植機「SPICA-A」の取扱説明書とか……非常にマニアック!
入口奥の衝立側には主にモリサワの書体カタログが展示されている。取材当時はモリサワのカタログを殆ど持っていなかったため、目を皿のようにして熟読させていただいた(笑)。
モリサワの「つめ送り専用文字盤」の配列図。写研の「つめ組み用文字盤」とは違い、送りem数毎のグループ分けの配列が統一されておらず*、em数の順ではないなど混沌としているように感じる。写研のようにem数順に厳然たる配列を行えば、モリサワのように「(字面の)検出板」を書体毎に用意する必要がないなど機械設計上の負担が少なくて済む反面、モリサワ方式では字幅がとても太い・あるいは細い文字があったときに融通を利かせて配列できるという利点もある。筆者はルールが単純明快な写研方式が好きだけど。
*写研の「つめ組み用文字盤」の配列
どの書体も8/16emから16/16emまでに仮名が分類され、文字盤の上から16分の8、9、10、11、12、13、14、14、15、15、16、16、16em の文字が同じ列に並ぶように配列されている。「つめ組み用文字盤」の記事の写真も参照されたい。
写研とモリサワが争ったいわゆる「ゴナ・新ゴ事件」*の判決文中、被告モリサワの主張として度々新ゴやツデイの起源であるとして登場し、長年筆者の中で謎だった同社の「太ゴシック体直B101」(1972年)の配列図。本当に「ツデイ」ファミリー(1979年〜)のデザインほぼそのままだったとは……。歴代の文字盤見本帳を確認するとツデイの発売直前まで掲載されている。当時としてはかなり先進的なゴシック体ではあるが、使用例は見たことも聞いたことも全くない。
*ゴナ・新ゴ事件
印刷用書体ゴナU対新ゴチック体U事件。
大阪地方裁判所、平成5年(ワ)第2580号、第9208号 著作権侵害差止等請求事件。平成9年6月24日判決。「新ゴシック体はゴナを複製したものであるから著作権を侵害している」として写研がモリサワを提訴した。大阪地方裁判所はこれを棄却するも1997(平成9)年に写研が大阪高等裁判所へ控訴、翌年棄却されたが写研は同年最高裁判所へ上告。2000(平成12)年9月7日の判決により上告は棄却されている。
会場の入口から向かって右側にはサブプレートの販売コーナーが。筆者もつめ組み用文字盤や和文書体の従属欧文を購入させていただいた。
文字盤ケースの横では、メインプレートが照明されて美しく輝いていた。その上には写植と絵本のブログ「いまさら写植。なおさら写真植字。」さんから提供された貴重な資料のパネルが掲げられている。
ヤンマーディーゼル用と思われる特注の文字盤を見付けた。長尺のロゴは複数の字面に分けられていることが分かる。文字があるガラス面はモリサワ製なのに枠は写研用という不思議な仕様。
ひととおり展示を堪能し終わり、楽しみにとっておいた「文字の食卓」展へ……。
→つづく
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