●仮名が変われば表情が変わる
現在の日本語の文章に於いて、仮名の占める割合はおおよそ7割であり、文章から受ける印象を仮名が決定していると言っても過言ではありません。つまり仮名の書体を変えることで簡単に文章の表情を変えることができるのです。
1970年代に始まった“新書体ブーム”により、様々な表情の書体が多数登場しました。1980年代もその勢いは止むことがなく、むしろ増していました。
総合書体の漢字と組み合わせるための仮名のみの書体(以降「仮名書体」)も以前から、アンチック体、1960年代のカナモジカイの仮名やタイポス、1970年代の広告専用見出し書体やピコ・カジュアル36をはじめとするタイプバンクの書体といったようにある程度の発表はされていましたが、1980年代は「味岡伸太郎かな」シリーズ(リョービ・1984年〜)のように、多数の仮名書体がウェイト展開を伴って発表されるようになりました。
1985年に写研から発表された「ゴカール」は、「ゴナ」との混植用に作られた仮名書体でした。
同年には「ロゴライン」が発表されるなど、ゴナと混植できる仮名書体が求められていた時期であり、当時写研の社員だった書体設計士の今田欣一氏が、同社の若い女性社員の筆跡に着目し、ゴナEと混植するための仮名書体として試作したことがきっかけでした。
ゴカールはまずウェイトEとUが1985年に発表されました。その後ゴナと同様に、デジタルフォント制作システム「IKARUS」を使用してウェイト展開が図られ、1987年にはウェイトL、M、D、DB、B、Hが発表されました。
その後同じく今田氏の提案がきっかけで、ゴカールE、H、Uが総合書体化されることになり、1997年に電算写植機用のデジタルフォントとして発表されました。
→参考:今田欣一さん「文字の厨房」[航海誌]第11回 ゴカールE
●力を抜いた、可愛らしいゴシック体
特徴は、角形のマーカーで一気に書いたようなまるっこい画線で、定規で引いたような直線部分がありません。線の太さはほぼ均一なのですが、手書きの勢いを感じさせます。
また、画線を付ける・離す、はねる・はねないなどが厳密でないため、太字でも軽快な印象です。こういった要素により、肩の力が抜けてふわふわとした可愛らしい雰囲気が出ています。
真面目で非の打ちどころがないゴナの仮名をゴカールに替えて組むと、親しげで楽しい雰囲気に一変します。1980年代後半から1990年代前半にかけ、若者向けの雑誌や新聞広告、おもちゃやテレビゲームなどのパッケージ、折り込みチラシ等によく使われました。
1997年に総合書体化されたゴカールは印刷物では殆ど見かけませんでしたが、2007年までのNHKとTBSのテロップでその姿を見ることができました。
現在、ゴカールの出番は殆どなくなってしまいましたが、多くの人に知られた現役の例を挙げるとすれば、アニメーション『クレヨンしんちゃん』のロゴに使われている書体がゴカールです。
ゴカールHで『クレヨンしんちゃん』ロゴを再現
長体の率・ベースラインシフト量・Q数変更など、細かく手が入っている。
●ファミリー
▲は電算写植機専用書体です
書体名/書体コード
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発表年 |
ゴカールL/K-LGC |
1987 |
ゴカールM/K-MGC |
1987 |
ゴカールD/K-DGC |
1987 |
ゴカールDB/K-DBGC |
1987 |
ゴカールB/K-BGC |
1987 |
ゴカールE/K-EGC |
1985 |
ゴカールH/K-HGC |
1987 |
ゴカールU/K-UGC |
1985 |
ゴカールE(総合書体)/EGC▲ |
1997 |
ゴカールH(総合書体)/HGC▲ |
1997 |
ゴカールU(総合書体)/UGC▲ |
1997 |
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