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●かつての書体事情と組み方
H 今も写植の文字は綺麗でいいと思うんですね。ですけど、Macの文字がいいか悪いかはよく分かりませんけど、それもやっぱり文字という事に関しては寂しい気がしますね、ある意味ではね。
かなりこだわって……例えば行間のアキはどのくらいが一番綺麗に見えるとかね、そんな事も一生懸命勉強してやった覚えがありますね。ですけれども今はそんな事はないですもんね。文字は正確に読めればいいっていう事ですけども……まずそれは間違いない。それは原点ですけど、ある分野に於いてはそういう事をしつこく追求してらっしゃるのかなとは思うんですけど、一般的にはあんまりね、文字がどうこうという事はなくなってきてる気がしますね。人をけなすとか、人の作ったのをいいとか悪いとかいうのはね、問題があると思いますけど、確かに写植の文字は綺麗だったと思いますね。残念ですけどね、その点では。今思えばね、気に入らなかったら自分で作ればいいんですけどね(笑)。
亮 45年も前ですと書体はとても少なかったと思うんですが、Hさんが使われてた書体は何があったんですか?
H 石井の明朝、ゴシック、見出しと横太明朝……ですかねぇ。あとは丸ゴシック系ですか。その程度だと思いますよ。
亮 タイポスも出る前でしたか。
H タイポスは使った事ないなぁ。
書体で見せるってことはなかったですね。強調するなら太ゴシックとか太丸ゴシックだとか。そんなには文字はね。もっと太いのは描いて使ってましたね。あと文章系は太ゴシックが入って明朝が入ってと。それでよく変形レンズを使いましたね。横組みの場合は平体何番をかけると綺麗だとかね。縦組みの場合は長体をかけるといいとか、変形レンズ1・2・3とありましたかね。長体1番・2番・3番、平体1番・2番・3番、っていうのを使ってましたね。
亮 割と昔の印刷物を見ますと、例えばレコードのジャケットですとか、昔の雑誌ですね、そういうのを見ると横組みが大体平体がかかっていまして、何か傾向があったのかなというのは薄々感じてましたけど、やっぱりその方が見やすいっていう……
H まあ、真四角よりは綺麗かなーとね。
亮 流れが出るっていうんですかね。
H 当時使ってたのが平体2番、2割天地が圧縮されてるのをよく使ってましたね。それで空きは文字の3分の2がいいとかね。というのを使うのが結構ありましたね。真四角でやるとどうしてもゴツく感じるっていう気がしましたね。
亮 1970年代初期ぐらいまでですけども、ポスターですとか雑誌の広告ですとかあんまり詰め打ちせずにベタで組んであるのが多かったですし。
H 詰め打ちっていうのはある意味邪道でしたんですよ。それで頭とお尻を揃えるっていうね、今はもう打ちっぱなしでやっていきますけど、ピシッと揃えるっていうのが綺麗だったっていうんですかね、よくやりましたね。だから出版社の仕事というか、代理店の仕事は今はなくなっちゃったんですけど、M社っていう、あそこの仕事をやってましてね、あそこの原稿は原稿用紙にピシーッと空く所空けるとか、全部きちっと書いて、これをこれだけに入れなさいと。ある会社は書きっぱなし、縦から読むのか横から読むのかわっからへんっていう原稿を貰うと、我々素人ですとね、句読点を入れるとか切るとかすると叱られる事もありましたけどね。
的 でも原稿が悪いからやりようがないですよね。
H えらい事ですよね(笑)。
的 今横組みには平体をかけるような事をやられてたというんですけど、今見直されてる所がありまして、パソコンの画面で文字を読むようになってきてるじゃないですか。そこで使われてるフォントっていうのは写植の時代のもの、モリサワさんのが多いんですけども、それをフォント化したものですね。そうするとやっぱりフォントメーカーのデザイナーさんは縦組みでも横組みでも読み易く考えて作ってるんだよーと言われるんですけど、やっぱり横組みだとですね、ちょっと読みにくいというか、パラパラした感じになるという所で、最近その横組み用に平体……正方形の中に作られてるんですけど、正方形の中で平体になってる書体が出て来たりとかしてるんですよ(メイリオのこと)。
H 横組みをする時は多少縦横比を変えた方が綺麗だと思いますね。これは見た目ですよね、ヴィジュアル的に使う時は、ただ日本文字として見た時はやっぱりきちんとした昔からの形の方がよろしいんではないかなという気がしますけどね。これは矛盾してますけどね、言ってる事は。ただ昔の我々が持ってる日本文字っていうのは書いてますからね。今の文字っていうのは活字から来てますよね。だからその違いかなーという気がしますね。文字の柔らかさと文字自体の生きてる感じですかね、そういうのと比べると活字文字っていうのは事務的っていいますかね、そういう違いかなーという気がしますけどね。元々母型の中に鉛を流し込んで出来たものがベースですもんね。だからその違いかなって気がしますけどね。
的 木版の中に一文字ずつ彫るのは大変だから予め用意しておいて組み合わせようねっていう。
H そうです。だからどんな文字にも合う、何を組み合わせても文字として伝達できるっていうものと書き文字とは違いますもんね。こっちに書いたものをこっちに持って来ると合わないですもんね。前後で影響しますからね。その辺の違いかなーという気はしますけど、その辺になると私達でもちょっと分かりません(笑)。
亮 この前PAVOを使ってる方の取材(「書体と組版の魅力とこれから」参照)に行ったんですけれども、今でもこういう風に手動機でやってらっしゃるんですが、今、前後の影響が手書きだと出るという話を聞いて思ったんですけど、見出しですとかきちんと一つのものとして組む時に文字をただ並べるだけじゃなくて、前後の文字を見て、助詞の「と」はQ数ちっちゃくするですとか、「と」と「これから」の間を少し空けてやるとか、そういう気遣いをしてなるべく手書きに近付けようと、意味として分かりやすくしようという努力をしているっていう事を聞いたんですよ。多分SK-3RYの時代はとても難しい事だったと思うんです。今でもそういう手書きに近付けるための努力っていうのは必要だと思いますし、DTPになった今でもやっていく必要があるんじゃないかと思っているんです。
H そうですね。ただ非常に難しいのはね、商業ベースに乗っけた時にね、このこだわりをどこまで相手先がね、見てくださるかという問題があるんですけど、そういうことを考えてお仕事していらっしゃるっていうのはかなり羨ましいですね、はっきり言うと。そこまでこだわってね、なかなかそこまでは皆さん考えてらっしゃらないと思うんですよ。
亮 時間としてもあまり余裕がないでしょうし。
H そうです。僕らがある会社の、特にデザイナーにもよりけりですけど、写植の文字がその方は気に入らないっていうんです。先程仰ったようにね、文字をベタ打ちで打っておいて切って詰めてね、やってるのを。間隔が全部一緒に見えるようにやってらっしゃる方がみえましたけども、言葉の伝達という事にかけてはある意味ではよろしくないとね。
的 一時期はそういう本文もあったじゃないですか。で、DTPでもツメのボタンを押すと詰まっちゃうんで、その名残なのかよく分からないんですけど、そういう文章があると。だけどそれが読み易いか、何が読み易いかという事を考えると難しいですけど、読みにくい事は確かですよね(笑)。
H そうなんです(笑)。その辺の事は難しいんですけどね、ある意味そういうものと、いわゆる通常の、言葉を伝達する文字との違いは両極端にいくのかなあという気はしますけどねえ。
●文字組に対する意識の現状
的 分けられる人は……分ける事が大事なのかなと思いますね。
H そうですね。そういう方も少なくなっていくんじゃないですか。若い方がそういう事を継承されてね、勉強されてね、じゃあこうしようとね。こういうものはこうであるという事を伝えていってくだされば、それは生きていくと思うんですよ。だけど普通はね、そこまでしないんじゃないかな。
的 違いが、例えば色を赤にしたとか青にしたとかそういう違いはよく判るんですけど、写真が入ってたのをなくして……とかってのはよく判るんですけど、文字が詰まってるとか詰まってないとかっていうのは判りにくいですよね。
H そうですよ。
的 だけど一方で伝統的なものですとか高尚なもののイメージを伝える時はディテールの積み重ねが大事だと思うので、そういった分野では必要なんじゃないかと思います。
H ちゃんと教えられる先生が少ないんじゃないかなあ。色とか形とかっていうのは皆さん前に出て教えられますけど、もう一つ後ろに隠れた部分はどうなんでしょうね。今日び若い人は興味持ってないんじゃないかも分からん。(一同笑)
的 実際デザインをやってる現場の方と話してると、Hさんは仰る事にすごく共感できる方にお会いできたなと思うんですが、今やってるデザイナーさんや学生さんと話すと、そういう話は聞かれない。だから僕らはちょっと浮いてるのかなと思うんですけど、そういう特集を雑誌で組むとすごく売れるらしいんですよ。それは一体どういう事なのかなと。その辺りを我々解明できてないんですが……。潜在的ニーズはあるんじゃないかなと。
H 忘れてたことを思い出すのかな、文字っていうのを。潜在的って事ですけど。
的 でも買って読むのは若い人ですよね。……あー、その尊敬するデザイナーさんとかの作品を見て、今実際若い学生さんとかがMacで作ると。その中で何となく自分が出来ないモヤモヤとした所が思い出すってことなんですかね、雑誌を見て。「これってこういう事なのかなー」って。
H ……かも分かりませんよ。何となく。
的 学校では習わないんだけど、何か本には書いてあるって。その意味も半分くらいしか理解できないんだけどっていう事なんですかね、魅力を感じるというか。
H 昔聞いたことがあるなあというレベルじゃないんですかね。頭のどっか片隅にあってね、思い起こすってことかも分かりませんし。
私達の高校の時にはね、卒業証書を自分達で作ったんですよね。印刷科だから石版で刷って。文字は先生が書かれたんですけど、刷るのは自分達も手伝ってましたね。だからA君とB君とは極端に言えば濃さが違う。酷いやつなんか掠れてるのもあったんじゃないのっていう気がしますよ。
だから、そういう所があるんじゃないのかな。昔々の本を見たらこんなんだったよと。ですけど我々は今見てる本は殆どフォントの塊ですよね。だけど昔のものはそうじゃなくて、活字もあれば書いたものもある。写植もあり……っていう所じゃないかなという気がしますけどね。何せ物を見るのは気なしで見てますもんね。これ(印画紙)もそうですけど、お話を聞いてみると「おーっ」って思いますけど、これがどこかポッと置いてあっても「何だこれ」っていうレベルですよね。その違いかなぁと。
亮 こっちから「こういうものがあるんですよ」って提示される事によって気付くっていう事があるかもしれませんね。
H 確かにそうですね。だから仰るようにね、そういう物のなりはこういう事ですよという事で「面白そうだな」と思う子も出ると思いますけど、分かりませんけどね(笑)、いわゆる“巡り会い”という気でもっていつも見てればいいんですけど、殆ど気なしで生活してますからね。日頃の生活に追われちゃってね。
女房はよく言うんですけど、「お父さん電車にしょっちゅう乗るといいよ」って言うんですよ。地下鉄でもバスでもいいから、中吊りが面白いよって言うんですよね。女房も元々デザインの系統でしたから、そういう事言うんですよ。「文字の仕事やってるんだったら電車乗ってみたら?」って。たまに地下鉄乗ってみると「面白いなー」って言うんですけどね、(心の中では面白くないと思っていらっしゃる?)(一同笑)。
こういう事をやってらっしゃる方はやっぱり頑張ってもらいたいですね。
亮 ああーっ。(恐縮)
的 頑張ります。
H 写植の話するの久し振りですもんね。
亮 おそらくそうでしょうねぇ。
H 懐かしい。
的 亮月さんは写植研究家なので(笑)。
亮 私が写植が大好きで東京にも行っちゃうような人間なもので、こうやって実際に打っていただいたりしてるんですけれども、
H 逆に的場さんの所のような会社ですと、そういうものはないですよね。
的 ないですね。特に、超大手さんですと活字もあり写植もあり電算写植もありMacもありって形なんですが、名古屋の中小企業ですと(H:いえいえ)最先端の機器を入れてコストを下げないといけないんですよね。ですから新しい機械を入れると。そうすると前の機械を使ってた人が対応できないので、若い人を入れるという所で、こういった色んな文化が損なわれている所がありまして、逆に見直す必要があるんじゃないかと思っています。
→つづく
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