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●窓際のPAVO-KVB
H ……見てみます? ものすごく汚いですけど勘弁してください。
(2階へ)
H これがそうです。使い方がよく分かんなくて、ここに「枠固定」のボタンがあるんでこのランプが消えなくちゃあかんと思うんですけど。
亮 どっかでですね、何かを押しながら何かを押すと全部解除できるのが確かあったと思うんですよ。
H やってみてください。どうぞどうぞ。
亮 何やったかなー。う〜ん。
(スポン! と音がして枠固定が外れる)
亮 あっ、外れた!
H どこやった?
亮 「OLE」ってやつが点きっぱなしでしたんで、これを解除して枠固定を押すと……動いた!! やったー!(筆者、興奮)
H おー! すごいすごい(笑)。
亮 前、知り合いに写植屋さんがいまして、その方の所で写植機借りまして打たせてもらってたんですけど、このボタンをいつもリセットで押してらっしゃったんで、これかなーって思って、押してみました。
H おー、すごいや。
亮 よかったー。動いた。すっごい動いちゃった。あとは表示をなんとかしないかんなー。どこやったかなー。
H よかったら持ってってもらってもいいですよ。
亮 あっ、そうですか!? プレハブ建ててそこに置きたいです(笑)。
H どうせ……あれですから。
亮 捨てる運命に……あるんですね。
H かわいそうですけどね。(※写植オペレータだった人は、処分するしかない写植機を「かわいそう」という人が多い。)ここに印画紙が入ると思うんですけどね、だけど暗室がないからね。
亮 ちょっとだけ……直ったかも? やっぱりこうなりますよね。知り合いの所も緑色の点々がいっぱい出ちゃって、調子が悪かったんですよ。
的 本当は全く出ないんですよね。
H という事はモニターがもう壊れてるんでしょうねえ。
亮 そうでしょうね。(枠固定OK・Q数レンズは回る・モニター表示は変・シャッターが切れない事がある)
H アドバイスも何も出来ないけど。
亮 いえいえ。(モニター表示を正すべく色々かまってみるが、直らない)
……う゛〜ん惜しい。実に惜しいと思います。基板関係がダメになりやすいんですよ。ほったらかしだったのも多少はあるかもしれませんけど。
H みんな文字盤ばっかなんですよー。引き出しにあるのは。(引き出しを開ける)
亮 うわー! 宝の山ですね!! すごいです!!
H よかったら持ってってもいいよ。
亮 いいんですか!?
H いいよ。どうせほかっちゃうやつだから。
亮 ありがとうございますー! No.34は持ってないですー!(興奮しすぎ)
H サブプレートとかもね、みんないらんもんですよ。
未使用のメインプレート。
「メインプレート」と書かれた段ボール箱から取り出すと
発泡スチロール製の内箱が入っていて、その中に文字盤が収められている。
亮 メインプレートが……未使用の状態で……ええーっ!? 初めて見た!
H 何だったら取っといてあげますよ。
亮 お願いしていいですか?
H いいよ、別に。処分するやつだから。
亮 ありがとうございます。よく取ってありましたね。残っていたというか。素晴らしい……。
H こういうもんでも僕から見たら勿体ないんですよ。だけど一般的に言うと産業廃棄物。だからよろしかったら使ってくだされば。今すぐじゃないから、仰っていただければ横によけておきますから。
亮 メインプレートがこんな箱に入ってるなんて初めて見ました。
H そうなんですか。
的 魚屋さんみたいな感じですね。割れますもんね、ガラスですから。
亮 「写研 メインプレート」って書いてあるんですねー!
H 多分使ってないと思います。
亮 未使用ですよねー。うわー。言葉にならないです。
学生の時に写植屋さんがPAVO-KVB空いてるから使ってよって言って使ってたのがこの機種だったんです。だからちょっと思い入れがあるんですよ。
的 「B」って何ですか? ビジネスフォームのBなんですか?*
亮 何でしょうねぇ。機能はPAVO-KYとそんなに変わらなかったと思うんですけど。一通り出来たと思います。
*PAVO-KVBの「B」
この機種に搭載されているインチ送り機能やスポット罫線の線長補正機能が、基となった機種「PAVO-KV」には搭載されていないため、ビジネスフォームの「B」であると考えられるが、写研の公式見解は不明(2010年8月現在)。
H ここ(窓)から表へ出せるからね。(一同笑)
(電源投入、写植機が起動する)
亮 写研のサービスさんが何とか直してくれればいいんですけど……今大阪になっちゃいましたからね。名古屋なくなってしまったんです。
H あー、本当。……300キロぐらいあるのかなぁ。まあこれモニターがなくても使えるよね?
亮 まあ、実質は使えると思います。ベタ打ちぐらいは何とかなると思います。
H 僕ら使ってたのは、3RYってモニターないんですよ。これ(ボタン)もないし。だから計算上で文字の大きさも見えないから、点示板だけでやってるからね。何センチの中に何字入れるとかね。で、植木算ですよね。色々計算してやってましたから、別に文字を遊びで打つっていう事であれば使えますよね。あとこれで印画紙と暗室があればいいからね。今のラックが動くようになっただけでもいいじゃないですか。どーしようかなと思ってね。手でやってもえらい事だしねぇ。
亮 電源入れ直せば動くみたいですね。
H ナールもありますよ、とか言って(笑)。
亮 ナール大好きなんです。
H 洗ってやれば綺麗になるよ。
装着されたまま埃をかぶった文字盤たち。
PAVO-KVBの緑色の間接照明と選字ガイド周辺を照らす明かりが美しい。
亮 東京に私みたいな写植が大好きな方がいまして(文字道の伊藤さん)、その方もこういう廃棄寸前の写植機を貰って来ては自分で直したりとか、写植だけの展覧会をやられまして、文字盤の即売会ですとかやってらっしゃる方がいるんですよ。去年その方に初めてお会いしたんですけど、やっぱりこういうのを見るとかわいそうだから全部もって帰るって仰ってまして、秋田だろうがどこだろうが行っては写植機を貰って帰って来るそうですね。倉庫には写植関係のものがゴロゴロしてるらしいです。
H 前もって仰っていただければいつでも出せますから。
亮 印刷博物館っていうのが東京にありまして、そこには電源も入らない死んだ写植機が置いてあるんですよ。なので、これは印字は今の所できないですけど、こういうもんですよーっていうのが、電源が入って、Q数レンズがぐるーっと回るぐらいだったら展示というか、飾りぐらいにはいいかなーって思うんですけどね。
H 無い物ねだりで言っちゃいかんですけど、この前の機械(SKシリーズ、スピカシリーズ)の方が、置いといて骨董品というか、絵にはなるね。
亮 そうですよね。歯車がむき出しで、レバーがついてガチャンガチャンって。あの方が写植っていう感じがしますよね。
的 これ(PAVO)はロボットみたいですもんね。
亮 殆どパソコンみたいですもんね。キーボードみたいなのがついてたり。
H こんな感じです。
亮 ありがとうございます。枠が動くようになっただけでも。本当に……5年ぐらい振りの再会ですねー、KVBとは。で、久しく写植の印字も自分ではやらなくなってたんですけど、これが本当に動くようになるとありがたいんですけどね。
H もし写研さんの人で、年配の方になるのかなー、よく分かりませんけど、見てもいいよっていう人がみえてね、動くようになればさ、それはそれなりにいいかなってねえ。
的 みえるといいんですけどね。
H 自分で直すか、ねぇ。
亮 そうですね。(一同笑)
H 運命はもう、そういう事(廃棄処分)になると決まってますから。
亮 また見させてもらいたいと思います。ほんと、すごく貴重なものがゴロゴロと、色んな所から出てきましたんでびっくりしました。こーれーはーちょっと、写植好きとしてはたまらないですね。
H そう言ってもらえて嬉しい。
亮 えへへ(笑)。
→つづく
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