2012.9.19(水)
於:亮月写植室
注意
本記事は筆者が所有する手動写植機の修理状況をレポートしたもので、正式な修理方法を指示するものではありません。本記事に従い作業を行って生じた損害について、亮月写植室はその責を負いかねます。あらかじめご了承いただきますようお願いいたします。 |
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●不調を訴える PAVO-JV
ある印刷所から2011年3月に PAVO-JV を譲って頂き使用してきたのですが、印字そのものに支障はないものの幾つか不具合が生じていました。
・電源を入れると原点検出(印字位置を機械原点に戻す)の動作をして印字位置が一旦原点に置かれるが、すぐに右下の隅(座標の最大値)まで勝手に移動し、「ピコピコ」というエラー音を発する。
・電源を切る度に記憶させた座標の位置を忘れる。
・電源を切る度に字づら検出の設定が出鱈目になる。
・電源を切る度に送り I の任意歯送り・em/32 送り、送り II の設定値を忘れる。
特に字づら検出の設定値を忘れるのは再設定に時間がかかり、うっかり設定をしないまま欧文やつめ組み用文字盤で印字しようとすると印字位置がとんでもない位置に飛ぶ等おそろしい状態で、非常に気を遣いました。
●不調の原因と修理方法
電源を投入する度に写植機が音を発して不調を訴え、設定をやり直さなければならないのは精神衛生上よくありません。これらの症状について、ちょうど本稿執筆の少し前に故障した SPICA-AH に関してお世話になっている方から詳細な助言を頂きました。
4V の Ni-Cd 電池が CPU 基板に実装された RAM の記憶保持に使われていて、それが劣化しているとのことでした。電池は汎用品で代替可能で、半田ごてが使えれば交換できるそうです! 自力での修理には不安がありますが、やってやるです!
ご教示いただいた電池と同じものを入手できました。
ノーブランドの「コードレス電話機用電池 充電式ニッカド電池 3.6V 600mAh」です。ご教示いただいた方によれば、写研の純正品は 4.0V であるものの、3.0V の電圧が確保できていれば記憶の保持ができるとのこと。なお、Ni-Cd 以外の蓄電池は交換の実績がなくお薦めできないとのことでした。
前面パネルを開けます。正面左に光学系、右には制御系がひしめき合っています。
冷却ファンの奥に基板が数枚格納されているのを確認できました。
バッテリーが接続されている CPU 基板は向かって右から2番目とのこと、ファンユニットの裏にあるようです。写真では赤い端子が沢山並んだ箇所の右下辺りです。
本体の裏に廻り、カバーを外しました。複数の基板にフラットケーブルが挿さっています。ご教示いただいたように裏から見て左から2番目が CPU 基板です。
頂いた説明書きでは CPU 基板にバッテリーが直接ハンダ付けされているとありましたがこの個体は若干異なり、基板からハンダ付けでリード線が長く延び、青緑色のコネクタを介して本体側面にある白い円柱状のものに接続されていました。
バッテリーが基板に直付けされているのは初期型で、リード線によってバッテリーが隔離されているものはその腐蝕の影響を受けないよう位置を変更したものとのこと。バッテリーが腐蝕して基板を傷める問題が頻発したのでしょうか。
初期型の場合は、下の写真にあるストッパー金具のネジ2本を外し、フラットケーブルも全て抜いて CPU 基板を引き出し、ハンダ付けされているバッテリーとリード線を交換する必要があります。
本体の右側面を見てみると、金属の梁にネジ止めされている白い円柱状のものがあります。これが純正バッテリーです。これを購入してきたものと交換し、リード線も新しいものと交換することで症状が解消される筈です。
再度本体表側に廻りました。操作パネルの下から手を入れ、青緑色のコネクターの接続を外します。
赤黒のリード線は本体側面に渡されたフラットケーブルと一緒に青いプラスチックの留め具で束ねられています。これも外します。
留め具の内側に黒いスポンジが使われているのですが、フィルムカメラのモルトと同じようにぐじゅぐじゅに溶けかかっていてぽろぽろと崩れます。指はねちゃねちゃ。ふえぇ……。
純正のバッテリーを取り外しました。「8711」という製造年月らしき数字が見えます。端子は腐蝕し錆が噴出しています。
取り外したバッテリーの代わりに購入してきたものを接続しました。リード線はほぼ全交換しましたが、先の青緑色のコネクターは今後の保守の為に生かしました。半田付けができなければ導線を絡げてテープで留めても良いとのことだったので、不格好ですがテープでしっかり被覆しました。
●動作試験!
さて、正しく動作するでしょうか……。
まず、不調時の動作音をお聴きください。再生した瞬間大きな音が出ます。充分ご注意ください。
→20120917.mp3 (20秒、332KB、128kbps、ステレオ)
電源を投入するとファンの音が高まっていき安定します。5秒程経つと原点検出の動作に入ります。しかし10秒辺り、文字枠の固定と同時に機械原点から座標の最大値(点示板の右下)へと印字位置が勝手に走り出し、これ以上移動できない位置に到達すると「ピコピコピコピコ……」というエラー音とともに停止します。
ここからフリーランキーを押して機械原点へ印字位置を戻すことができるので実用上支障はありませんが、明らかに異常を来しているのを放置しながら使うのは忍び難いものがありました。
続いてバッテリー交換後の動作音です。こちらも再生した直後に大きな音が出ますのでご注意ください。
→20120919.mp3 (15秒、254KB、128kbps、ステレオ)
電源投入から2秒ぐらい後に原点検出の動作が行われ、その後すぐに文字枠が固定される音がします。これで印字の為の準備が完了。始動も心持ち速くなっているようです。印字位置が勝手に走り出すこともエラー音もなくなりました!
座標記憶や送り I・II、字づら検出も入力したものを保持するようになり、コンセントを抜いて暫く経ってからコンセントを挿して電源を投入しても設定値を忘れることはなくなりました。
修理成功です! ばんざい!
不調の原因を特定し、修理方法をご教授いただいた○さん、本当にありがとうございました!
【完】
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