スタンダード文字盤【すたんだーどもじばん】


スタンダード文字盤

●写植機の実用化初期からSK型までに用いられていた小型文字盤

 写真植字機の発明当初は「文字の配列は市販のタイプライターの音訓配列とし、市販活字の清刷りからとった約3000字を、湿版写真で一枚のガラス板にとったものを文字盤とした」(写研『文字に生きる』から引用)といいます。最初の文字盤は1929年に完成しました。
 しかしこの文字盤一枚による方法には難点がありました。3000もの文字を収めた大きな文字盤の扱いにくさと、その大きな面積を撮影・複製する必要があることからレンズの収差による誤差が避けられないことです。
 そこで小型の文字盤を複数枚使用することでそれらを克服することとしました。一枚の大きさは縦6.5cm、横10.5cm。配列は「一寸ノ巾」方式を採用し、収録文字数は縦13文字×横21文字で最大273文字を収録。「文字の膜面を内側にして、接着剤で貼り合わせて」あります(写研『写真植字ハンドブック SK3-RY 操作篇』より)。これが後年「スタンダード文字盤」と呼ばれるようになったものです。

●煩雑だった文字枠への装着

 スタンダード文字盤は先述のようにガラス板であり、メインプレート方式のような金属の枠や正しい位置に固定するための孔はありません。その為、写植機の文字枠に装着するにはオペレータが厳密な調整をする必要がありました。
 文字盤の四隅に収録されている十字状のチャートを写植機のファインダーに投影し、ファインダーのクロスチャート(田印)と重なるように(水平・垂直が正しく出るように)文字盤の位置を調整します。
 位置の調整は、プレワックス(電気コテで融解する蝋状のもの?)による固定と、厚紙の重ね貼りで文字枠との隙間を埋める方法とがありました(『写研』25号/1971.11.9発行 p.28より)。

スタンダード文字盤の断面
スタンダード文字盤の断面
黒い厚紙が貼られ、大きさが微調整されている。

プレワックスによる文字盤の固定
「プレワックス」による文字盤の固定(出典:『写研』25号 p.28/1971.11.9発行)

●「中枠交換方式」そして「SKメインセット」へと進化

 このように、スタンダード文字盤は文字品質の確保のため細かく分割されていた訳ですが、印字する書体を変更するには、文字枠に装着された十数枚のスタンダード文字盤を一枚ずつ交換しなければならないため、写真植字の主な用途だった雑誌広告など複数書体を使用する環境では作業効率の悪化を招いていました。

 そこで、1957年に発表された「SK-3R」では、「中枠交換方式」を採用しました。
 スタンダード文字盤文字盤15枚を一度に交換できる「中枠」を文字枠に装着できるようにしました。中枠を文字枠の左右に装備し、中央5枚は記号や英数字等のスタンダード文字盤を装着できるようにしてあります(文字盤の配列は後述)。これによって、中枠ごと文字盤を交換すれば印字する書体を変えられるようになり、煩雑だった多書体印字を容易にしました。
 中枠の奥にはラック(歯車のようなギザギザ)が取り付けられ、写植機が印字の位置決め(枠固定)をする際にかみ合うようになっています。また、左右には小さな取っ手があり、中枠を取り出しやすくなっています。

SK-3RYの文字枠とスタンダード文字盤
SK3-RYの文字枠
(出典:『写真植字ハンドブック SK3-RY操作篇』p.34/1957年初版、1972年発行)
両手で持った格子状になっているものが文字枠の「中枠」で、文字盤15枚を一度に付け替えられるようになっています。
スタンダード文字盤の大きさがお分かりいただけると思います。

 その後この中枠交換方式は更に「SKメインセット」へと進化しました。
 従来は15枚のスタンダード文字盤を中枠に装着していたものを、頻繁に使用する一級・二級の文字が収められている中央(1〜9番)の文字盤を一体とした(この一体化した文字盤を「SKメインセット」という)方式です。三級以降(10番〜)は従来のスタンダード文字盤のまま中枠に装着します。

ナールDのSKメイン文字盤
ナールDのSKメイン文字盤(亮月写植室蔵)

 製造面では工程の省力化・単純化ができ、印字面ではオペレータが寄り引きの微調整をする手間がなくなるなど、現在のメインプレート方式に近い使い勝手となりました。
 このSKメインセットは写研の機関誌「写研」38号(1976.2.14発行)で発表され、これ以降SK型に供給される文字盤はこの方式に切り替わりました。

ナールDのSKメインの配列(一部)
ナールDのSKメイン文字盤の配列(一部)

●スタンダード文字盤の収録文字

 スタンダード文字盤は収録可能文字数が少ないため、総合書体(漢字や仮名、約物その他を全て含む和文書体)では複数枚に亘って収録されることになります。

スタンダード文字盤の配列
スタンダード文字盤の配列(出典:写研『文字盤見本帖』p.3/1970年11月版)
見本帖では No.1、No.6、N0.18 を代表して掲載しています。

 収録文字種は以下の通りです。

・No.1 平仮名、一級漢字
・N0.2〜5 二級漢字
・No.6 カタカナ、二級漢字
・No.7〜9 二級漢字
・No.10〜17 三級漢字
・No.18 拗促音、数字、記号

 これら18枚の文字盤が1書体として文字枠に装着されます。
 スタンダード文字盤にも使用頻度がごく少ない四級漢字が存在します。No.19〜No.33 の15枚です。

SK-3RY文字盤配置図
文字盤配置図一例(SK3-RYの場合)(出典:『写真植字ハンドブック SK3-RY操作篇』p.70)
文字枠中央に平仮名が収録されたNo.1を配置し、片仮名のNo.6をその手前、あとは使用頻度(級)毎に取り囲むように並べていたようです。文字枠右下の「促音」はNo.18。

 各文字盤のコードは、例えば細明朝体ニュースタイル大かなのNo.1の場合「LM-NKL1」、中ゴシック体小かなカタカナ大のNo.6の場合「MG-KS6」、太ゴシック体のNo.10の場合「BG-10」のように書体コードの直後に文字盤ナンバーを付けて表記します。

文字盤に記されたコード
文字盤に記載されたコードの例
細ゴシック体大かなカタカナ小(LG-KL-B)No.6の場合、「LG-KL6B」となります。

●サブプレートに遺されたスタンダード文字盤の名残

 SPICA型PAVO型の発売によりメインプレート方式を採用するにあたり、下記のように文字盤のコードが変更されました。

・No.1〜9、18 →メインプレートへ。コード末尾の数字が消滅
・No.10〜17 →三級サブプレート7枚へ。コード末尾が「-S1〜-S7」に変更
・No.19〜33 →四級サブプレート15枚へ。コード変更なし

 No.1〜No.18 は文字盤のコードが変更されましたが、四級漢字はそのまま「LM-19(〜-33)」のようにスタンダード文字盤のコードがそのまま引き継がれました。
 そのため四級漢字のサブプレートのコードが中途半端な番号から始まっているように見えるのです。スタンダード文字盤時代の名残と言えるでしょう。

●しばらくはメインプレート、サブプレートと併売

 SPICA型やPAVO型の普及によってSK型以前にのみ適合するスタンダード文字盤は消滅するかに見えましたが、SK型からの移行期に於いては新書体がスタンダード文字盤から先行発売されるなど依然優位にありました。
 しかし1980年初頭にはスタンダード文字盤発売のアナウンスがされなくなり、機関誌『写研』で確認できるスタンダード文字盤が発売された最後の書体は「石井太教科書体 BT-A」(『写研』50号 p.40/1980.12.20発行)でした。その後発売された書体の大半が見出し用ということもあったでしょうが、このころがスタンダード文字盤を必要とするSK型の事実上の引退時期だったと推測されます。


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