写植機の原理

●あらまし

 写植は「写真植字」というように、写真の原理を用いて印字する仕組みです。文字の形を撮影して並べ、写真にしたものです。いわば「文字の写真」です。
 写植を印字するために用いられるものが写真植字機(写植機)で、和文タイプライターとカメラを合体させて大きくしたような機械で一文字ずつ文字を打ちます。

手動写植機PAVO-KY
写真植字機(写植機)の一例
写研「PAVO-KY」(1987年)

 写植機では、Q数(文字の大きさ)の変更、長体(縦長文字)・平体(横長文字)・斜体、印字する位置の指定などができます。
 縦組み・横組みの他にも、斜めに組んだり、円に沿って組んだり、放射状に組んだり、文字を回転させたり、直線や円弧を描いたりといった作業ができる機種もあります。

写植機の原理
写真植字機(写植機)の原理
出典:写研『写真植字』No.45、表2、1992年

 上図は写植機の原理を示したものです。写植機の中では、光源ランプから発せられた光が様々な装置を通り、写植文字を撮影するための感材が納められたマガジンに届きます。
 写植を印字するには、写植機内で次の工程を経ます。

●光源

光源ランプ
写研「PAVO」用の光源ランプ

 写真と同じように、写植には光が必要です。写真では日光や各種照明の光が感材や撮像素子に届き像を結ぶように、写植でも光源ランプの光が感材を感光させています。
 飛びや滲みのない鮮明な印字を得られるようにするため、光源の強さ(光量)はダイヤルや足踏みペダルで調節することができるようになっています。

 写研の写植機では、SPICA型はキセノンフラッシュランプ、それ以外ではタングステン電球が用いられます。SPICA型は印字する瞬間しか光源が光らないので、原理上スポット罫線を引くことができません。

●文字盤

メインプレート
写研の文字盤「メインプレート」

 文字の形がネガ状(黒地に透明文字)になったガラスの板です。コンピュータに於けるデジタルフォントに相当します。
 文字盤には様々な書体や記号が収録されていて、文字盤を替えることで多くの書体を扱うことができます。
 光源からの光は文字の形の部分だけを通過することができ、レンズを介して感材まで届くようになっています。
 文字盤は「文字枠」という縦横自由に動く枠に載せられていて、印字したい文字を光源の位置まで自由に移動させることができるようになっています。

サブプレート
写研の文字盤「サブプレート」

 文字盤には、仮名や主要な漢字等を収録した大きな「メインプレートと、英数字・記号・使用頻度の低い漢字等を収録した小さな「サブプレート」があります。
 文字盤の形状はメーカーごとに異なり、写研とリョービとでは両者製の写植機へ互いに装着可能ですが、写研・リョービの文字盤をモリサワ製の写植機に装着したり、モリサワの文字盤を写研・リョービ製の写植機に装着したりすることはできません(非公式に、装着できるようにする器具や加工が存在しました)。

●レンズ

写植機のレンズ
写研「PAVO-KY」から取り外したレンズ

 写植の要はレンズです。レンズによって文字の大きさや形状を変えることができ、写植最大の特徴となっています。
 文字の大きさを変える「主レンズ」と、形状(縦長・横長・斜め)を変える「変形レンズ」があります。機種によっては補助拡大レンズ(JQレンズ)も搭載しています。
 活版印刷では文字の大きさごとに活字を揃える必要がありますが、写植では文字盤さえあれば写植機のレンズによって文字の大きさを段階的に変えることができます。このため、文字毎・大きさ毎に準備しなければならない活版印刷に比べ、非常に少ない使用面積で印字することができます。

文字盤とQ数レンズ
文字盤(下)と主レンズ
主レンズは文字の大きさごとにあり、文字盤からの光を拡大・縮小して印画紙に導きます
写真は24Qが選択された状態です

 リョービ製の一部機種には、主レンズがズーム(無段階に拡大・縮小)になっているものがありました(未確認)。

●ファインダー

写植機PAVO-KYのファインダー
写研「PAVO-KY」のエンブレム(左)とファインダー(右)
ファインダーの右下にあるノブを引くと文字が投影されます

 写植機では印字する文字を直接見ることができないので、採字(打ちたい文字を決める操作のこと)している文字を投影することができるファインダーを備えています。
 ファインダーには実書体・実寸・実際の形状で映し出すことができ、画数の多い文字のように文字盤上で確認することが難しい文字等を映し出したり、作字(印字したい文字がない場合、他の文字の部首を組み合わせて文字を作ること)の際に必要ない部分の光を紙で遮りきれているかどうかを確認したりすることができます。
 機械の構造上、文字盤からの光は感材かファインダーかのどちらかにしか届かないので、ファインダーを使用しているときは感材に印字されることはありません。

●シャッター

 写植機にもカメラのようなシャッターがあります。
 シャッターボタンに相当する「印字キー」(または「主レバー」)を押し下げるとシャッターが一瞬だけ開き、文字盤を通った光が感材に届きます。
 一日に何千文字も印字する必要があるので、写植機に搭載されているシャッターは耐久性を持たせるため回転式になっています。切り欠きを持った円盤が光を遮るように光軸上にあり、円盤が回転すると切り欠きを光が通過するという仕組みです。

●送り

 フィルムカメラによる写真がそうであるように、一度撮影したら二重に映らないよう次の位置へ移動する必要があります。写真撮影のフィルムを1コマ巻く動作にあたります。
 文字を印字したあと、次の印字位置へ移動することを「送り」と言います。
 送りには写真のように感材を移動させる方式と、感材を固定しておいて光学系(鏡やプリズム等)を移動させる方式とがあり、この組み合わせによって感材のどの場所にも印字できるようになっています。
 送りは活版印刷のように隣接の文字からの制限を受けないため、字面(全角の枠に対し文字が占める部分)に対して食い込んで印字したり、くっつかせたり、重ねたりして自由な位置に印字することができます。

 写真植字機の発明当初、送り動作は手の力で歯車を回転させて印字位置を移動させる方式でしたが、後年になって電動・電子制御化され、パルスモーター駆動となりました。それによって複雑な計算を伴う組版を自動化することができました。

●感材

 光源からの光の最終到達点で、文字の形が感光して写真として残る場所です。通常、写植では感材として印画紙が用いられます。
 感材は「マガジン」という密閉された箱に収められ、光源からの光以外は入らないようになっています。
 感材の性質上、色の表現は写植機のみではできません(1974年6月に、感材に着色する「イロック」という薬品が発売されていました)。黒地に白抜き文字を印字する印画紙は存在します。

●現像

 こうして感光が終わった感材は、そのままでは文字の形を残すことができません。写真と同じように現像の過程を経て、初めて文字として目で見ることができるようになります。
 暗室内でマガジンから印画紙を取り出し、現像・定着・水洗い・乾燥を行ったら写植の出来上がりです。

印画紙

 これまでの過程で写植機で印字する文字を直接見ることはできません。そのため写植機には、ファインダーや点示板ディスプレイ画面のように印字位置や形状を確認するための装置が備えられています。


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