亮月写植室

神戸から写植の灯が消えても
2011.9.30(土)〜10月1日(日)
於:兵庫県神戸市内 某社


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●文字盤は、ベンツ置いとるようなもん!

A これがうちのいきさつですわ。そこに間借りしてたとこなんです。この方が写研の当時神戸で有名なのが3つあったんですわ。その中の一つ。一つは震災でちょっとにっちもさっちもいかなくなってしまったんですけどね。この方がすっごい良くしてくれて、仕事も僕何も分かれへんかったから、「受け取り」いうて下請けみたいなもんです。その人の文字盤借りて、ちょっとずつちょっとずつ文字盤揃えながらやってきたんやけどね。僕がやり始めた当時(1980年代中盤)ゴナナールが出とって、あのファミリーが出て泣いたんですわ。お金どんどんなくなって。1枚98000円ですもんねこれ。ワンセット揃えるのにサブ(プレート)がゴナ系は4枚ぐらい要ったと思うんですよ。あと外字(三級漢字、四級漢字、正字など)でしょ。外字が1枚9000円やからね、あのちっちゃいのが。そやからこれだけ見ただけでほられへん(捨てられない)のですわ、なかなか。
亮 これが1枚9万と思うと、とても……。
A そうなんですよ。だからベンツ置いとるようなもんで(笑)。皆にはそないやって言うんやけどね。ベンツ3台ぐらい持っとるような感じで。昔やったらね、もっと欲しがる人いてはってんやけど。
(筆者が持っている写植機が)点示器だけかなーと思ってたんで、お金出してもええからもし置いてもらえるんやったら思とったんやけど。
亮 ただ……うちのは画面付いてるんですけど、ちょっと調子が悪くてですね、あんまりうまく……。
A (JVの)中のカメラは今(PAVO-KY)のカメラじゃないですよね?
亮 多分違うんじゃないですかねぇ。中身はまだ深い所まで開けてないですけど。
A まだすぐほうらないですけど、11月に引越ししよかなと思うとるんで、おいおい要るもんあったらね、のけときますわ。どうせ分解してほってしまうと思うんで。
 文字盤がちょっと整理してないんですよ、時間なかったもんやから。またおいおいちょっと追って……。でも亮月さん殆ど持ってはりますわ。見してもらったんやけどね、亮月さんとこの文字盤一覧を。殆どうちよりもまだ、結構あるんちゃうかな……。
亮 私の所も色んな所から譲って頂いたりして、ちょこっとずつ揃えてますんで、結構偏りはあるといえばあるんですよ。
A 多分ね、あれだけ揃えてはるいうのは結構持ってはった方の……「オクギ」なんか、僕にしては最近なんやけど、持ってはったから、もう殆どあるんちゃうかなぁ。数式のメインプレートなんかもあるんでしょ?
亮 数式はメインは持ってないです。
A なかったですか? 大きいのは。
亮 サブが1枚だけなんです。

数式組みメインプレートMA-B
数式組みメインプレートMA-B

●珍しい文字盤で仕事を取る!

中国簡体字石井細明朝体第2メインプレート
中国簡体字石井細明朝体第2メインプレート

A うちね、中国語の文字盤あるんですよ。興味ないと思うねんけどね。
亮 いやいやいや。
A 簡化文字いうてね、中国の本国の方の。(文字盤のパンフレットを取り出す)この文字盤ですわ。多分これ1枚30万から40万したと思いますわ。別注ですねん。だから何やったらまた送りますわ。関係ないと思うねんけどね(笑)。
亮 これはめっちゃ貴重だと思います!
A と思うんやけどね、僕にしたら貴重やと思うねんけど。で、明朝とゴシックがあるんですわ。だからメインが2枚ずつ、それとサブがね。何でこれ入れたかいうたら、結局もう何か特色がないと、要するに写植の仕事ってみんな同じ文字盤持ってる訳やから、文字盤の多い所にどうしても仕事が流れるみたいな傾向やったんで、それと何か特色があるのをと。で、これに目ぇつけて。中国語が話せる訳やないねんけど、結構面白いっていうか、四級の字ってサブでしか取れないじゃないですか。これには入っとるんですよこの中に。ただね、簡化文字やからちょっと日本では使えないのが殆どなんですけどね、馬偏とか門構えなんか全然違うんで。でも結構面白い。うちね、昔中華料理のメニューやってたんですよ。台湾の方は四級の文字がすごく多かったんですわ。今でもあるんですけどね。四級の字を見てたら、先に台湾の方の(繁体)文字盤をと思ったけど高かってよう取らんかったんやけど、こっちが本当は欲しかったんですわ。写研が中国に機械出した時のやと思うんですけど、これがね、台湾の文字盤で、昔の四級の字が殆どですわ。だから「学」でも真ん中のペケペケの入ったあの「學」なんです。古い字ですね。だから四級の字やったらこれ全部取れるやん思てやったらめーっちゃくちゃ高かったんですわ。これとこれで。こっち(繁体)は四級でカバーできるからええわ思うて買わんかったんですわ。こっち(簡化文字)はどうしてもないもんやからね。
亮 こ・れ・は貴重ですねぇ……。
A 多分ここまで持ってるいう方は……(関西の)写研(ユーザー)の中でもうちだけちゃうかなと思います。
亮 そうだと思います。こんな方初めて会いましたもん。中国語の文字盤持ってはるっていう人。(筆者も似非関西弁が入ってくる)
A あ、そうですか、フッフッフッフ!(笑)
 なんせ写研もびっくりしとったからねぇ、中国語って「えーっ、何するの?」言うから「いや何もする事ない」言うて。
亮 文字盤見本帳の外国文字の所に載ってたんで、使う人があるんかなーとは思ったんですけど。
A 入れたら結構注文あったんですけど、やっぱりカタログありますよね、カタログで韓国語とか中国語とか日本語とか英語とか一式になったやつの中の。あんなんで注文来とったんですけどね。読まれへんからね、校正がでけへんのですよ、打ってもね(笑)。これ合うてんのか間違うてんのかいうのが全く分かれへんかったから。そやから校正はちゃんとしてよっていう条件でいつもやっとったんやけどね。
亮 原稿が汚い字だったりしたらわっからへんし。
A 大変やったんですよねぇこれ。

楽譜組み用文字盤MU-V-1~3
楽譜組み用文字盤MU-V-1(3枚組のうちの1枚)

A あとね、面白いのは楽譜なんですわ。
亮 楽譜もやってらっしゃったんですか。
A いや、やり始めたらこの仕事(写植)なくなってしまったんです。
亮 あら。
A これがね、3枚セットやったかな。
亮 こーれーはまた貴重ですね。
A それも多分持ってるとこ少ないと思うんですよ。
亮 だって説明書が手書きですもん、これ。

楽譜組み用文字盤MU-V-1〜3取扱説明書
楽譜組み用文字盤MU-V-1〜3取扱説明書

A そうそうそう。それが組み方なんで、一緒についてきたんです。買った時に。これもなんかごっつ写研に言わしたら「珍しいで〜。そんなん頼む人おらへんわ〜」て言われて。
亮 めっちゃ貴重ですよ。
A これやり始めたんですよ。やり始めたら仕事ポシャってしもて。音楽関係のね、今そんなんじゃないですけど、こんな分厚い本。あれの注文あったんですよ。そやけどその会社潰れてしもたからね。その為に入れたんですわ。その方は元々電算で打ってはったんやけど、結構これで学校の校歌なんかね、小学校とか中学校の。あれやったんです。これ(PAVO-KY)しか出来んのですわ。
亮 画面見ながらじゃないと打てないんですか。
A はい。これ用の、多分「PAVO用」って書いてある……これしかできひんのですわ。だから点字器ではちょっと無理なんで。これは差し上げます。
亮 いいんですか?
A もう使うことないから(笑)。
亮 ありがとうございます……(感涙)。
A 要るもん全部言うてもろたら。替え用のハロゲンランプ。これも持って帰ってもろたらええと思います。
亮 ありがとうございます。ランプがもう新品でないんで。
A このランプがね、また抜けんでね、かったい(笑)。もう苦労して苦労して。いずれなくなる思たからね、買っとったんですわ。機械の中にまだ1個あるしね。何せ物持ちがいいんですよ。昔からね(笑)。
亮 そうですね、色々持ってはりますもんね。
A でも元取れとんか取れてないのか分からへんの。
亮 あぁーっ(笑)。
A これはやり出したらはまってしまうんですわ。五線もそのままスポットで引けるんで。ト音記号みたいなもんも一発で押さえられる(採字できる)から、全部のマスク(大字母)で押さえたら全部映るようになってるんです。そやからこれ(PAVO-KY)でしか出来ひんもんでね、これかKVBもそうやったかな。あ、JVもできるね。ほんならよかったやん。
亮 よっしゃ。
A 面白い所で言うたらその辺ぐらいかな。こんなもんですわ。
亮 ほんとごく最近ですよね。文字盤に1997年って書いてあります。
A だから出てすぐ買ったらその会社潰れてしもうてん。流行りを過ぎとったんやろうね。
亮 私が高校生ぐらいの時ですもん。もう十数年前。
A あの当時ごっつい良かったんですよ。これも別注やったんですわ。

●もう少し出会いが早ければ

A 光源の堅さまで知ってはる言うたら、ちょっと、おらへん(笑)。すっごいなーだけどもう。その若さで写植ぅ? 信じられない(笑)。
亮 もうみんな、そうやって言われるんで、まあ自分としては写植が普通っていうか、慣れ親しんでたんで。別に何とも思ってなかったんですけど、やっぱり物珍しいようでして(笑)。
A 今はなくなってるからね。だから今DTPやってはる人で写植知ってる人で話できる人って、もう僕らの年ぐらいしか居てはらへんからね。若い人で「写植」言うても、版下も知らんもんねぇ。版下も多分知らへんから。
亮 若い人は就職したらもうMacの時代でしたもんね。
A 僕はもうMac触るの嫌やったんで、これやっててMac触る言うたらちょっと考えられへんもんね、そんなん。
亮 だって全然違う世界ですもんね。
A そうそう。結局その波に押されてしもたんやけど。けどいずれはね、触りたかったですよね。ずっと置いとって。まあその、商売じゃなくて「こんなんあったよ」ぐらいの仲間で組んでね。一時ね、この界隈に結構印刷屋さん多かったんですよ。今はだいぶ潰れてなくなったけど。活字やってはったんで、活字どないしよ言うて一回相談受けたことあってね。持っとけ言う訳にも、あれでも結構場所取るしね。
亮 一文字ごとに何本も持ってないといけないんで、持っておこうと思っても場所ばっか取っちゃって大変ですもんね。
A こいつ(PAVO-KY)はもう結構稀少価値やから思うて、何か役に立て……役に立ちようがないねんねぇ(笑)。簡単に動いてくれへんしねぇ。亮月さんのJVはどうやって運ばれたんですか?
亮 その時は、印刷所から譲り受けたんですけど、下の茶色い所と上の本体が分けられますもんね。お神輿みたいにして。
A 業者あったんですか?
亮 これがピアノ運送の業者に頼んで、専用の(本体にねじ込む)運搬棒はなかったもんで、フレームにベルトみたいなのをつけて人が二人来て肩にかけて運んでいきました。
A うちもね、ここ上げるの大変やったですよ。
亮 そりゃ大変ですよこれ。細い階段で3階までどうやって上げられたんですか?
A (笑)大人5人ぐらいで、今はもうなくなってるんですけど、重量運送屋さんがこれ持ってはったんですよ。写植機に挿す棒を。その会社を通して全部買ってたんですけど、写研直接やと現金がなかったから(笑)。ほんで買ってたんですけど、そこの紹介でちょうど「引越しするで」言うた時に5人ぐらいと、写研の人が2人ぐらい来てたかなぁ。何せもう必死こいて上げてたんですわ。半日ぐらいかかって。
亮 だって、人が上がってくるだけでも結構大変なとこですからねぇ。
A これ(KY)だけちゃうしね、2つ(KVBも)あったからね、泣いてたですわ。それ知ってるからなかなかこれ動かすに動かされへんからね、一旦ここ置いてしもうたらもう終わりやからね。それでしゃあないから1個は処分して。大阪の業者も2台持ってはったから、「どないする?」言うから「ない文字盤だけちょうだい」言うて10枚程もろたんやけど、機械はさすがにもうあれやから言うて壊してはったけどね。1週間ぐらいかけてバラして。……どないして運びはったんかなーと思って。JV入れたのはつい最近ですよね。
亮 3月に譲り受けました。
A そうですよね。もうちょっと早う、もうちょっと早う……あっはっはっは(笑)! ほんまに半年もないよねぇ、惜しかったなぁ。まっさか今時写植なんてことが出てくるの夢にも思てなかったから。
亮 多分……全国でも自分だけだと思います。この歳で写植やるって人は。
A なんかそういうもんで盛り上がることないんかなあ。
亮 盛り上がってほしいですよねー、写植で。
A ね。

●書体と文字組への拘り

A あのね、結構今時のデザイナーで写研言うてはる方多いんですよ。僕の知ってる人でも。だけど写研の文字が出ない(印字できない)のは分かってるから、それとアナログでしょ。で、アウトライン(サービス)て言ってもフォントワークスいうところが似た字出してるよね。だから「Aやん(社長のこと)あかんでー」て言われてこないだちょっと話しよったんやけど。県内にね、もう昔っからのデザイナーの人がうちの古い付き合いの方なんですけど、忘れた頃に「太明OKL(石井太明朝体オールドスタイル大かな)打ってくれへんか」言うてヨボヨボのもうおじいちゃんですけどね、「うっそやろー、もう印画紙がないんですよ」言うてたら「ほなしゃあないなぁ」言うてはったけど、その人は昔っから太明OKLで。いつもうるさいの。横はいいんですよ。縦に打ったらね、ごっつ怒ってきはるねん。何を怒ってくるのかな思たら「お前んとこの文字はいがんどる!」言うて。いやうちはいがんで打つ訳ないんやけど、ちょっといがんで見えるんですわ。特殊な字やからね、よう怒られたんですよ。「指定通り打ってない」言うて、「いやそんな事あらへんですわ」て。実際にはいがんでないんやけど目の錯覚で縦に打ったらね。
亮 右へ行ったり左へ行ったり。
A OKLはねぇ、縦よりも横の方が綺麗かったと思うんやけど。

石井明朝体OKL
石井中明朝体OKLと石井太明朝体OKL

A 打ちたいのは打ちたいんやけどね。今度(筆者が)来はる言うてたから、付き合いのある会社に「印画紙買うてよ」て言うたら「今時印画紙なんかないわー」て言われて。まだ名残(暗室の跡)はあるんですよ。ちょっと暗いけど。
(暗室へ)
A うちは最初三菱(の印画紙)使うとってんけども、三菱がなくなって、それで富士だけになってしまって。でこいつ現像機なんですわ。これが自現(自動現像器)。これが定着から水洗いまで、水槽があって。順番に通って乾燥して出てくる。で、これで100万。
亮 そうですかー。……うーわー!
A 100万写植で稼ごうと思ったらどんだけしんどいか。僕がね、仕事やけどちょうど慣れてきてひと月頑張って稼いで80万ですよ。それが十何年前やから。100万いかんかった。なんぼやってもいかんかったんです。それでしゃあないから言うんで、体壊すから言うんで電算を入れたんですわ。あの電算が800万円やからね! ははっ!(笑)それに書体つけたら1000万。でね、写研の悪い所はね、電算の末端はいいんですよ。末端はいいんですけど出力機がないんですよ。出力センターへ行かないと出ない。個人では絶対無理やったんですよ。神戸にもセンターあったんですよ。写研の電算の出力機が。
 出力機が僕らでは到底……1億やからね、システム全部揃えるのに。そんなん個人で1億なんてとてもやないけど無理なんで、センターへ出しに。だから写研の悪い所は何故そういう上からの目線ていうか、僕らの末端……機械を売る時はなんぼでも売るんやけど、末端まで手が届かへんていうか、わざとそうしてたんかよく分からへんねん。そこが多分欠点やったと思うんやけどねぇ。あの辺もうちょっとちゃんと密にしてたらもっとこの業界伸びてると思うねんけどね、何らかの形でね。まあアナログはアナログなんやろうけど、こんだけ文字ネタ(書体)持ってる訳やから絶対に。どっちかいうとモリサワは取っ付きにくいんですわ。
亮 私もです。ちょっと抵抗あります。
A だから丸ゴにしたってナール、ゴナなんか最高の字ちゃうかなと思うんやけどねぇ。
亮 今見てもすごい綺麗だなと思います。
A 読みやすいでしょ。写研の字は縦に組んでも横に組んでも。まあ、個人には色々好みがあるんやろうけど。
 僕はね、書体で言うたら写研の中ゴ(石井中ゴシック体)が好きなんですわ。デザイナーの影響なんかも分からんけども、そのデザイナーが、友達やったんですけど、中ゴの使い方がごっつ上手いんですわ。写真のキャプションしたりね、あんまり大きいQ数使われへんけど、中ゴがごっつ好きでねぇ。中ゴの注文受けた時は殆どサービスしとった(笑)。それやからあんまり儲かってないんと思うんやけど(笑)。
 中太ゴシックってあるでしょ。あれは僕取っ付かへんのやけど、モリサワであの太さは出せてないんですよ。だからモリサワに中ゴ(中ゴシックBBB)ってあるんやけど、あの中ゴじゃないんですよね。それと書体っていうか。
亮 あのデザインが。
A そうなんですよ。昔っから(写研の)中ゴが好きやったんですよ。
亮 あれ以上上品でシュッとしたゴシック体って。
A 太くもなきゃあ。中太ゴシックはちょっともっちゃりていうんか、あれは要らんかったんちゃうかなと思うねんけども。
 あと最近ていうか、デザイン文字で言うたら、昔映画のテロップに「ナカフリー」が出てきとったよね。ナカフリーでもBよりもLの方が好きなんですけども。あと手書きの文字で「オクギ」。あれが好きで。

オクギ
オクギ
古いSPICA-QDで印字したため中央が掠れています。

亮 いいですよねぇ。
A 何か味あるでしょ。オクギがごっつ好きでね。全然注文ももろてないのに、一応注文もろた分は打つんやけどね、その横にオクギで全く同じ文章で打って「どうやこれ、使うてくれ」言うて、何回も出したことあるけどね、あんまりウケんかってんけどね(笑)。「何やこの字!」て言われたんやけど、「いやこれが好きなんや」って。
亮 ちょっと写植らしくないっていうか、ぼそっとした感じが。
A 手書き風でね、あんなん写植で珍しかったから、ごっつい気に入って全然関係ないのに打って。「余分なことしてくんなー!」言うてきて「この書体気に入ってもらわなあかんねん」言うて。笑い話になって言うとったんやけど。
 「ナウ」も持ってはりましたよね。
亮 ナウはMUを持ってるんですよ。
A これ両方ある。太いのんと……MUは太いんですか?
亮 一番太いですよ。
N Aさんのが何で知らへんの?
A 忘れてるやろ? こんなん十何年前のやん、こっち(筆者のこと)現役やねんから、俺そんなもん(笑)
(一同笑い)

ナウMU
ナウMU(デジタルフォントで印字

 これ細い方でこれ太い方ですわ。別注したんですわ。写研用の枠にしてもろて。この頃ちょうどリョービが蔓延ってきててね、他に仮名がいっぱい出てたような気がすんねんけど。
亮 小町とか、築地とか、良寛とか、色々ありましたよね。
A それも全部持ってはりましたよね?
亮 いえ、殆どないです。ごく一部しか持ってないです。弘道軒とか。
A 弘道軒もありますよ。たぶんね。(笑)わっからへんで。もう完全に忘れとるもん。一回また整理して送りますわ。要るようなもんあったら置いときますわ。
 震災の時保険かけてなかったから、よう割れんかってねこれね。(鉄のキャビネットが)しっかりしとったからね。こっち(木製)やったら割れとると思うんやけど。
(弘道軒を探す)
亮 あ、ありました。
A すっかり忘れてますわ(笑)。結構そやからリョービの文字揃えたんかな。
亮 1980年代半ばって味岡伸太郎ブームっていうのがあって。
A ナウは結構出ましたよね。明朝でもなきゃゴシックでもないていうのんでごっつい人気やったんですよ。これはよう出てたわー。自分で作ってね、見本帳を。売りに行ったことあんねんけども。

A 全部持って帰ってもろてもええですよ、これ結局ほるからね。
亮 なのですごい勿体ないなあと思って。
A 僕も何か使い道ないかなあって思たら、スタッフが「こんな人いてる」言うて紹介してもろた。
亮 結構写植の文字盤っていうのが、ガラスに文字が入っているのが面白いみたいで、割と若い人がネットオークションで買ったりとかされてるんですよ。
A 結局ね、これ(引き出し)がしっかりしとったからね、震災で傾いたんやけど割れなかった。本当は保険掛けとけって言われとったんですよ。まさか神戸で地震なんてあると思わへんかったからね、前には「掛けとかなあかんよ」って言われとったんやけども。ガラスとガラスの間にフィルムが入っとる訳でしょ。割れにくいですよね、普通。バーンと割ってもフィルム入っとるから割れへんの。ひびはいくけど。ひびいってしもたらしゃあない。
 あと、どっかから出てくるかも分からへんですけど、作字用の文字盤があるの知ってはります?
亮 「四葉」っていうのですか。透明な所が四箇所ある。
A そうそう。あれがどっかにある筈ですわ。僕ら作字やってたから。
亮 ポジかなんかに撮ってやるんですか?
A そうそう。
亮 あれは原稿を手で書いて、それを反転させて、35mmのカメラで撮ればいけるんじゃないですか?
A あの大きさにしといたらね。結構登録しとったんですわ、何文字か。「モノール」。
亮 電算で外字登録するやつですか。
A モノールでやってて。思い出した思い出した。

●出力が大変だった電算写植

A あくまでも手動機の方に興味があるんですか? 電算より。
亮 電算も好きですけど、置く所がないのと、出力が今仰ったように出来ないので持ってても仕方がないかなと。
A それがネックやねんねぇ。
亮 電算でも普通紙出力のできるSAGOMESというのが……
A あれでも結構するねん。そやから出力で泣いたんや。大阪の堺まで出力で行ったことあるんですよ。もうどっこもやってくれる所がなかって。そんな遠い所までいちいち行かれへんわ言うて。ほんで電算は辞めてしもうた感じですわ。電算言うても、結局これ(手動機)みたいに手で拾っとったからねぇ。
亮 タブレットみたいなもので。ペンでつついて。
A そうそう。あとはテキストで落とせるように放っとったんやけど、最終的には手直しは手動機で拾っとったからね。
亮 そう大して使い勝手は変わらないんですね。
A 記憶が出来るだけで。まあその良さなのかな。あとは詰め文字盤空打ちせんでもええ。欧文なんか何回もやったですね。
亮 欧文の横組とかだと空印字をわざわざやって、もう一回本印字やって。あれ面倒くさいですよね。
A あれしんどいでしょ(笑)。

●「す。」と「ツメツメ」

A 「す。」(平板なイントネーションで「すぅまる」とおっしゃっていた)ってあるでしょ。あれ普通に(ベタで)打ってはります? 僕その「。」を1/16で3回いつも入れとった(-3/16em)んですよ。それと「し」と「て」の間は-3入れとったんかな。片仮名で言うたら「ピアノ」の「ア」と「ノ」。ああいうのんとか。もう数字全部忘れてしもうたんですけど、出てきたら勝手に手が入れとったんですわ。今でも多分出てきたらいごく(動く)んやろうと思うねんけど。慣れてきたから。あの間の空きがごっつい気に入らんで。まああんまり拘らんでもええんやけど。
亮 ただ前後と見比べるとちょっとそこだけ不自然に開いちゃったりとかしますからね。
A そうそう。いびつになるんですよ。

くいこみツメの例
「して」「す。」のくいこみツメ処理の例(A1明朝)
これらの2文字の間隔を見ると、隙間が他の文字間よりも大きく空いているように見えるので、文字の形により位置を微調整した方が美しい。他の文字間も同様である。

 昔指定で「ツメツメ」いうのがあったんですわ。詰めの文字盤でまだ詰めを入れる。それも「ゴナで詰めてこい」言うて。詰まる訳ないねんね。変に詰めるとひっついてしまうでしょ。だからこれ(画面)がごっつい役に立ったんですよ。見ながら詰めてたから。
亮 くっつかんギリギリの所まで詰めて。
A あとナールの詰めは泣いたなぁ。
亮 ただでさえ字面大きいですからねぇ。あんなんでどうやって詰めるんやって。
A 一応詰めの文字盤あんねんけどね。縦横と。

亮 文字盤、ものすごい沢山持ってらっしゃいますね。
A 結構あると思いますわ。なんせデザイナーが初めてうち来はった人ごっつい喜んどったからね。「こんなんもあるんや」言うて。大体僕は3種類ぐらい打って渡しとったんですわ。一つはオーダーもらった書体であと二つは推薦っていうか、僕の好きな書体。よう怒られたんですよ、「余分なことすんな!」って(笑)。「それよりか早よ持って来い」言うて。
亮 やっぱり自分の好きな書体って薦めたくなりますよね。
A そうそう。それで結局それ使うてる。自分の指定よりも僕が打ったやつを。

→つづく


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