空印字1空1・2空1〜3空印字【からいんじ】


●ジャスティフィケーション印字

 写植オペレータの印字前の準備を軽減するために、和文組版では「割付計算」機能が開発され、欧文組版や詰め組みに対応するために「空印字」機能が開発されました。いずれも1973年にPAVO-Kに初めて搭載されました。

 空印字機能を用いると、ある行長に対して行末に空きがないように文字が収まるようなスペース配分・字送り量・Q数・文字の形状を写植機が計算し、自動的に設定することができます。
 写植機の操作の手順としては、まず空印字を実際の印字と同じように行います。このとき印字はしないで送りだけがなされます。いわば字幅とスペースの入力作業です。空印字が終了したら写植機による計算・設定を経て本印字に入ります。本印字のときオペレータは基本的に採字のみすればよいようになっています。

 空印字機能の初搭載は「空印字」(空 I)がPAVO-K(1973年)、「空 II」は5インチディスプレイを初搭載のPAVO-JV(1979年)、「空 III」は15インチディスプレイを初搭載のPAVO-KV-KVB(1983年)でした。

●空 I(空印字1)

 行長とQ数が決まっているとき、残余歯数(空印字のとき行末にできた空間の歯数)に基づきスペースによって空きの配分をし、行末いっぱいまで印字する方法です。
 空印字のときの残余歯数をスペース(「SP em/16」キー)の回数で割ったものがスペース量に加えられて本印字のスペース1箇所分になります(※本印字のスペース1箇所分の歯数ががマイナスとなる場合はエラー)。「SP em/16」キーを一度も押さなかった場合は、残余歯数が字間に均等に割り振られて本印字されます(※残余歯数がマイナスとなる場合は均等に詰まる)。
 主に和文の詰め組みや和欧混植、欧文組版のジャスティフィケーションに用います。


空印字Iの模式図(『PAVO-KV, KVB 取扱説明書』p.38より筆者加筆)
基準位置がトップセンター(印字する文字の基準位置が、字送り方向は文字の仮想ボディの頭、行方向は仮想ボディの中央にある)の場合。この図では、行長が8em(全角の8倍)に於いて、欧文プロポーショナル送りのジャスティフィケーション(行頭行末揃え)を行う場合の考え方を示している。
欧文はそれぞれ1/16emの倍数の字幅を持っており、この図ではスペース(「SP em/16」キーによる送り量)は6/16emに設定されている。

写植機の操作と考え方
1 写植機の「空印字I」スイッチをセットし、空印字を開始する。
2 行末の文字まで採字して空印字する。ここでは印画紙に感光させない。空印字の結果、行長8emに対し3/16em余る。
3  「空印字I」スイッチを解除すると、行頭へ復帰する。
4 空印字と同様に採字して本印字する。このとき送り量は自動的に設定され、残余歯数がスペースに均等に割り振られる(「SP em/16」キーを押した時に、設定されていた送り量に付加される)。空印字の際に「SP em/16」キーを一度も押さなかった場合は、残余歯数が字間に均等に割り振られる。
※詰め具合を「1/16」「1/4H」キーで調節することはできる。しかし「空I」は行全体に於ける「1/16」や「1/4H」キーの回数(マイナスも可)は記憶するが、個々の文字毎のキー回数は記憶されず、空印字スイッチを押してから解除するまでの合計回数をカウントし、本印字ではそれぞれのキーを空印字と同じ回数押すように指示されている。つまり「空I」では
詰め具合(相対的な位置関係)を記憶することはできず、本印字では残余歯数を均等に割り振った上で1/16emや1/4Hを足し引きして印字位置を決めるので、詰め印字の文字の相対的な位置関係は空印字と本印字では変わってしまうため、「空I」は詰め印字の厳密なジャスティフィケーションには向かない。

 中心揃えや右(縦組みでは下)揃え、頭末揃え(植木算)にも用いることができます。

揃え組の考え方(『PAVO-KV, KVB マニュアル 組み方説明書』p.16より)
行長を1行目の「PHOTO FILM CO., LTD.」の長さとした場合。
空印字に於ける残余歯数を「SP em/16」キーを押した回数で割って本印字のスペース1個分の歯数とするという原理から……
中心揃えの場合、空印字では「SP em/16」キーを2回押しておく(行頭と行末のスペース分)。本印字の際は行頭で「SP em/16」キーを押すと中央揃えの印字開始位置へ移動する。
行末揃えの場合、空印字では「SP em/16」キーを1回押しておく(行頭のスペース分)。本印字の際は行頭で「SP em/16」キーを押すと、行末揃えの印字開始位置に移動する。
いずれの場合も、欧文のスペースに「SP em/16」キーを使用できないので、E欧文文字盤の6/16emの文字のない所を採字するか、1/16送りキーを6回押してスペース相当の空きを作ることになる。

 より実践的な、和欧混植の本文に於ける例を見ていきます。
 現在ではDTPソフトが(設定さえ適切であれば)自動的にジャスティフィケーションをかけてくれますが、手動写植の時代はオペレータがきちんと設計した上で写植機をひとステップずつ操作していく必要がありました。


和欧混植のジャスティフィケーションの考え方(『PAVO-KV, KVB マニュアル 組み方説明書』p.17より)
行長を18倍(全角文字18字分)とした場合。
漢字と仮名は全角ベタ送り固定、欧文はE欧文文字盤の字幅通りのプロポーショナル送り、和文と欧文のスペースは4/16em固定とし、約物(コンマ)を半角取りとした場合、長さは18字分よりやや短く、残余歯数が出る。
空印字の際はコンマ2個分(2回)「SP em/16」キーを押しておき、本印字の際に残余歯数をこの二つのコンマの後のスペースへ割り振ることで、和欧文文字の送りを変えることなく18字分ぴったりに揃えることができる。
本文であれば、行の数だけこの手順を踏むことになる。

●空 II(空印字2)

 ディスプレイを搭載した写植機(PAVO-JV、PAVO-KV、PAVO-KVB、PAVO-KY)は、「空 II」も可能でした。
 行長と文字の詰め具合(全角に対する相対的な字送り量)が決まっているとき、Q数の変化によって行末いっぱいまで印字する方法です。
 行末までに収まるであろうQ数(任意)で空印字をすると本印字に必要なQ数(主レンズ)とJQレンズが設定されます。本印字では空印字のときの詰め具合が反映されています。

空印字IIの場合の写植機の操作と考え方(『PAVO-KV, KVB 取扱説明書』p.53より筆者加筆)
「大自然のふところ」8文字を行長210Hで詰め印字する場合
1 Q数を検討する。210H÷8=26.25(Q)から、28Qのレンズが一番近いが、詰め印字により行長が短くなることを考慮し32Qのレンズをセットする。
2 写植機の「空印字II」スイッチをセットし、空印字を開始する。
2 行末の文字まで採字して空印字する。画面で詰め具合を見ながら、適宜マイナス送りを入れることも可能。結果、行長210Hに対し、送り終わった位置は200Hとなる。カーソルを文末(文字列の終わりの見かけの位置)へ移動し、「DL」キーで文末指定する。
3  「空印字II」スイッチを解除すると、行頭へ復帰する。このとき画面のコメントに倍率(×1.04:空印字の行長の1.04倍が指定行長)が表示され、主レンズとJQレンズが自動的に設定される。本図の場合は28Q 3JQ(28×1.15=32.2Q相当。32×1.04=33.28を超えない最大の主レンズとJQレンズの組み合わせ)が設定される。この時主レンズとJQレンズを手動で設定し直すことも可能。
4 空印字と同様に採字して本印字する。空印字と同様の詰め具合で行末ほぼぴったりに印字される。

●空 III(空印字3)

 15型ディスプレイを搭載した写植機(PAVO-KV、PAVO-KVB、PAVO-KY)は、「空 III」も可能でした。
 行長とQ数と文字の詰め具合が決まっているとき、字詰め方向に文字の形状(長体、平体)を変化させることによって行末いっぱいまで印字する方法です。
 印字したい文字の高さ(横組みのとき)または幅(縦組みのとき)のQ数(主レンズ)を選んでおいて空印字すると、本印字に必要な主レンズと変形レンズが選択されます。本印字では空印字のときの詰め具合が反映されています。

空印字IIIの場合の写植機の操作と考え方(『PAVO-KV, KVB 取扱説明書』p.53より筆者加筆)
行長210Hの幅に44Qの高さの文字を収めようとする場合
1  写植機の「空印字III」スイッチをセットし、空印字を開始する。
2  行末の文字まで採字して空印字する。結果、行長210Hに対し、送り終わった位置は268Hとなる。カーソルを文末(文字列の終わりの見かけの位置)へ移動し、「DL」キーで文末指定する。
3  「空印字III」スイッチを解除すると、行頭へ復帰する。このとき画面のコメントに倍率(×0.78:空印字の行長の0.78倍が指定行長)が表示され、変形レンズが自動的に設定される。本図の場合は44Q 長体3番(横幅70%。倍率を超えない最大の変形レンズ)が設定される。その後手動で変形レンズをセットすることもできるので、0.78の近似値である0.8倍(長体2番)のレンズを使用することも可能。なお、倍率が1倍を超える際は、文字が行長方向に長くなるようQ数レンズと変形レンズがセットされる(文字を拡大した上で字幅方向を潰すイメージ)。
4 空印字と同様に採字して本印字する。文字を変形させた状態で、空印字と同様の詰め具合で行末ほぼぴったりに印字される。


空印字IIIの実践例(『PAVO-KV, KVB マニュアル 組み方説明書』p.41より)
空印字IIIによる印字は限られた紙面に文字をぴったり収めるのに有効で、例えば雑誌の目次や電車内の中吊り広告などに多用された。ゴナファミリーと合わせて1980〜1990年代前半の紙面の典型的な風景だった。

 なお、「空印字II」「空印字III」とも、空印字の際に「SP em/16」キーを1回でも押した場合、主レンズやJQレンズ、変形レンズは変更されず、「空印字I」と同様にジャスティフィケーションのみを行って本印字をします。

●本機能の搭載状況
空 I(空印字) PAVO-10、-JP、-JL、-K、-K2、-K3、-K6、-KL、-KS、-B2、SPICA-AH

空 I・II

PAVO-JV
空 I・II・III

PAVO-KV、-KVB、-KY

非搭載 上記以外の機種

★本稿の執筆に当たっては、大石十三夫様(→なんでやねんDTP)にご協力いただきました。ありがとうございました!


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