5型CRT15型CRT ディスプレイ装置〈display〉


15型ディスプレイ写真
「PAVO-KY」の15型ディスプレイ
上段に印画紙の印字状況、下段に「コメント」として様々な情報が表示されています

●点示板の難点を解消するために

 写真植字機の発明以来長らく搭載され続けた点示板には難点がありました。
 文字の位置関係は判りますが、大きさや字種・書体は判らないのです。
 書籍本文のベタ組み程度であれば点示板で事足りますが、やがて盛んになった見出しの詰め組みをはじめとする複雑で入り組んだ組み方をするには長年の勘と経験による操作か、印字した印画紙の切り貼りに頼らざるを得ませんでした。

 そのような不満を解消すべく登場したのが、点示板とともに詰め印字用の5型CRTディスプレイを搭載したPAVO-JV(1979年)でした。
 この機種の出現により、写研の手動写植機では初めて印字する文字を(画面上ではあるが)実書体・実際の形状・位置関係で見ることができるようになり、詰め具合を確認しながら印字したり、空印字をしたりすることができるようになりました。画面に表示できるのは印画紙の一部で、画像メモリ不足のためある程度印字すると古い文字から消えてしまう等いまだ点示板の補助的な存在でしたが、非常に画期的な機能でした。

PAVO-JVの5型ディスプレイ
PAVO-JVの5型ディスプレイ(PAVO-JV カタログ/1987年より)
点示板の下に補助的に装備されている。画面で印画紙全体を見渡すことはできず、あくまで詰め印字用であり、印字位置周辺の印字状況を表示するに留まった。

●写真植字機で“WYSIWYG”を実現

 その後PAVO-KV-KVB(1983年)、-KY(1987年)では点示板が廃されて15型CRTディスプレイを備えるに至り、印画紙全体を画面上で見ることができるようになりました。標準、2倍、4倍表示が可能です。
 これらの機種の誕生の背景には「KV発表の三年ほど前から、アメリカでいわれていた」(写研『文字に生きる[51〜60]』より引用)といういわゆる“WYSIWYG”(What You See Is What You Get =目で見たとおりのものが印字できる)に挑戦しようとした写研の姿勢があったようです。
 レイアウト指定や割付計算に縛られてきた写植が自由な表現力を獲得したのはこのディスプレイ装置のお陰と言ってもよいでしょう。厳密な指定がなくても画面で見ながら組んだり、奔放なデザインであっても見た目で印字したりすることができるようになりました。印画紙には印字せず画面のみに映し込む機能もあり、画面上で試行錯誤ができるようになりました。現在のDTPを先取りするような機能が1980年代初頭の写真植字機には既にあったのです。

●情報を画面表示する「コメント機能」

 15型ディスプレイを備えたPAVO-KV、-KVB、-KYでは、これまでLEDによるデジタル数字で表示していた印字位置、送り I、II の設定値だけでなく、新たに字づら検出情報などもコメントとして画面に表示させることができるようになりました。表示される情報の詳細は以下のとおりです。

コメント1(PAVO-KV、-KVBでは「コメント」)

 機械原点からの位置or任意原点からの位置or行末までの残余量、送り I・IIの設定値、入力したキー(以上3機種共通)、Q数、JQレンズ変形レンズ像回転角度、記憶ページ番号(以上PAVO-KYのみ)

コメント2(PAVO-KV、-KVBでは「表字」)

ディスプレイのコメント機能

 主に字づら検出など文字盤の情報を表示します。文字枠番号、文字盤の種類、ベースライン下げ量(以上3機種共通)、採字マスク自動切換、光量降下量、印字時間、印字数、足踏み光量降下量、シャッター回数*けい線線端補正データ、縦/横インチ送りセット量(以上PAVO-KYのみ)

*シャッター回数
 1回の印字でシャッターの開く回数。光量調整ダイヤルで調整しきれないような低感度の感材を用いる時、複数回シャッターを開いて濃度を確保することができます。1〜9回を選択可。

●本機能の搭載状況(表示される文字の色)
15型CRT PAVO-KV、-KVB(以上グリーン)、-KY(白地に黒文字or黒地に白文字のいずれかを選択可)
5型CRT PAVO-JV(グリーン)
搭載 テロメイヤTG(グリーン)
非搭載 上記以外


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