●面倒な割付計算からオペレータを解放
写植機による印字の要は、どの位置にどの文字を印字するかを決定する「割付計算」です。割付計算は印字作業よりも煩雑なものであり、これをオペレータの手作業で行うことは大きな負担でした。
写研ではこの割付計算を写植機でできないかと考え、電算写植SAPTONの技術を取り入れて開発したのがPAVO-Kです。1973年5月27日から東京の科学技術館で開催された「第3回写研フェア」で発表されました。
PAVO-KはICおよび半導体素子からなる電子回路を持ち、送りはパルスモーターによって従来の8倍の分解能である1/32mm単位で駆動します。割付計算を行うには本体上のキーボードから必要な条件を入力するだけでよく、あとは写植機が印字位置を決定、パルスモーターによって自動的に送りが為されるので、オペレータは採字に専念すればよくなりました。
●電子制御化の恩恵
割付計算の他、様々な機能が電子制御化によって実現されました。
Q数や変形レンズの変更の際には、それに連動して送り量が自動的に設定されるため、印字位置や送り量をいちいち設定し直す必要はなくなりました。
長年押し下げ式だった主レバーは「印字キー」として形状を大きく変え、電気回路のスイッチに置き換えられたため印字作業の疲労が軽減されました。この印字キーは最終機種PAVO-KY(1987年)まで採用されました。
印画紙上の任意の位置を記憶する機能も初搭載され、12箇所までの座標を記憶しました。同じく初搭載されたスポット罫線機能との組み合わせによって乱れのない正確な罫線が写植機上で引けるようになりました。
地紋の場合は従来通り全角単位の印字を繰り返しますが、連続印字機能が搭載され、印字範囲をキー入力すると自動的に印字と送りを実行、その範囲に地紋を敷き詰めます。
印字位置の詳細は従来のダイヤルインジケータに代わり、写植機で初めて7セグメントデジタル数字によって表示されるようになり(発光方式は不明)、点示板では難しい細かな位置関係の把握に貢献しました。
操作エラー等は「ピンポ〜ン」と鳴るチャイムによって知らせました(1975.4.28発行『写研36』広告より。最近の機種は「ピコピコ」という音)。
開発に当たった石井常務(当時)は、「文字組版作業のあり方と今後を根底から研究調査して得たもので、単に表面的な便利さをてらい機能を複雑にしたものではない。手動写植機の新しい方向を決定づけるものと確信している」(印刷之世界社『写植タイムス』23号・1973.5.21)と話しています。
このように、電子制御化を一気に推し進めたPAVO-Kはその後の写植機の方向性を示唆した画期的な存在であり、様々な機能が搭載されていった後継機の礎となりました。
愛称は「パボKING」。写研の広告にはトランプのキングのイラストとともに「夢の写植機」とあり、まさに“写植機の王様”を具現化したような機種だったといえます。
●その他の機能、仕様
欧文自動字幅規定装置・逆印字機能・文字多様化機能はオプション。
寸法 |
幅1100×奥行800×高さ1350mm
(制御筐体 幅400×奥行720×高さ500mm) |
質量 |
300kg(キャビネットを含む)
(制御筐体 80kg) |
所要床面積 |
幅1800×奥行1300mm |
機械内容 |
主レンズ |
主レンズ24本(7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、18、20、24、28、32、38、44、50、56、62、70、80、90、100級) |
変形レンズ |
3種(No.1〜3)×8形状 合計24形状 |
文字枠収容文字盤 |
メインプレート2枚、サブプレート6枚 |
収容感材寸法 |
254×305mm |
ファインダー |
全級数(7〜100級)、全形状(正体、平体、長体、斜体)投影可能 |
点示板 |
ガラス板裏点示式 |
電源、光源 |
AC100V 50または60Hz 消費電力 最大750VA 白熱電灯 |
環境条件 |
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価格 |
450万円(1974.1.1現在) |
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