2014年
2014.11.30(日)
県内から見学にお越しいただきました!
若いデザイナーさんで、写植については殆ど知らないため実物を見て体験してみたいと思ったとのことでした。
『見学のしおり』をご覧いただきながら、写植の原理や写植機の機能を説明し、DTP との違いや共通する概念をご理解いただけたようです。
写植機の操作も当然未経験とのことでしたが、送りの概念と写植機の操作方法をすぐに把握され、採字以外は殆ど私の補助なしで印字されていました。さすが若い方は覚えるのが早い!
しかし、私の不手際で現像中に暗室を開けてしまい、印字していただいた印画紙を感光させて駄目にしてしまいました。すぐにもう一枚印字していただいたので、ご希望の印字は持ち帰っていただけたのですが、やってはいけない初歩的なミスをしてしまいました。申し訳ありませんでした。
印象的だったのは、デザイン事務所に勤務する若い方の率直な所感です。写植の書体が、あるいは写植による組版が、美意識のせめぎ合いによって作り上げられ、それに対価を払うことができた時代。それを違う世界のことのように話すのは心苦しいものがありますが、それが歴史であり、私がきちんと伝えていかなければならないことなのです。
「本文は読めればいい」、「○○書体を使っておけばいい」という感覚こそ、どこにでもある今の現場の本音であり、そういったものを差し置いて議論してはならない。文字に関する各種イベントや講演が意識の高い(興味のある)人達同士の自己満足であっては決してならない。
門戸を広く開け、啓蒙し、より良くするためにはどうしたらいいかを考えて実施することが必要なのです。私がそれを出来ているかと問われれば出来ていないのでしょうが、こうして片隅で踏ん張ってはいます。(まずは義務教育の国語の授業で「手書きと印刷用の書体は違う。書体には色々な種類があって、受ける印象が違う。伝えるために書体を使ってみよう。」というところから教えることが必要だと思うのですが。)
おそらく2014年最初で最後の見学会だと思われますが、とても良い刺激を受けました。楽しい時間をありがとうございました!
2014.11.21(金)
昨年8月に写植室をご見学いただいた(→レポート)台湾の柯 志杰さん(twitter:@buttaiwan)から、執筆・出版された御本を頂きました。
『字型散歩』(柯 志杰・蘇 煒翔/臉符出版)です。
ご本人によると、「台湾の町中の書体について、中国・日本から受けた影響や書体・フォントの基礎知識など、 中国語書籍にまだない啓蒙的な本になっています。」とのこと。
図版が豊富で、言わんとしていることは漢字を読めば何となく分かります。台湾の書体事情について、興味深く、楽しく読み進めることができました。戦後に日本の書体が台湾へ輸入され、以来かなり強い影響を受けています。そのため、日本の書体好きにとっても読んでおきたい内容です。
また、この本には、昨年来訪いただいた際に撮影された当室の写植機や文字盤の写真も掲載いただきました。
昨年のご訪問は、柯さんの大きなプロジェクトの中のひとつだったのです。こうしてお役に立つことができてたいへん光栄です。
巻末の「特別感謝」には、モノタイプやモリサワの名に並んで亮月写植室の文字が……。このような欄に載せていただくなんて、感涙であります。
台湾で出版された本ということで入手はやや難しいかもしれませんが、ぜひ手に取ってみてください。
2014.9.16(火)
15日から16日にかけ、写植展『moji moji Party No.8「言乃葉展」写植、光と影の創作』のお手伝いで、東京は表参道へ行ってまいりました。
会場は昨年12月の No.5 と同じ「表参道画廊」。
今回は版画家の田中彰さん、紙工家の名手宏之さんとともに、主催の株式会社文字道・伊藤義博さんが「写植家」としてこの二人とのコラボレーションを試み、また、これまで誰もやらなかった写真植字の新たな表現方法を創出していました。
恒例の、写植機「SPICA-AH」による印字と現像の体験もあり、体験された方に詳しい解説をさせていただきました。美大生をはじめとした学生の方や出版関係の若い方が多く、熱心に質問されるなど、私の立場としてとても嬉しく、楽しみながらお役を果たすことができました。
この写植機は「岐阜の山奥では見学が難しいので東京に置いてもらい、生きた写植に触れられる機会を作り出したい」という意図で貸し出しています。写植展への参加は点検と使用状況のチェックも兼ねています。積もった埃を取り除いたり、注油して動きの渋りを解消させたり、点示インクを補充したりなどなど、所有者として簡単なメンテナンスも行いました。稼働する写真植字機は貴重な産業遺産だと思うので、傷めることなく大切に使っていっていただきたいものです。
会期中の写真は moji moji Party 公式サイトにあります。
写植展のお知らせ(終了しました) |
2014.8.25 掲載
◉moji moji Party No.8
「言之葉展」写植、光と影の創作
会期 2014年9月15日(火)〜9月20日(土)
会場 表参道画廊+MUSÉE F
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前4-17-3
アーク・アトリウム B-02+B-03
時間 正午~午後7時(最終日午後5時)
パーティ 9月20日(土)午後3時〜
企画・主催 株式会社文字道(→moji moji Party 公式サイト)
2013年12月に表参道画廊で開催され、好評を博した写植展が帰ってきます。
「写植家 伊藤義博、版画家 田中 彰、紙工家 名手宏之。三者が光と影をテーマに作品を展示。会場では写真植字機 SPICA 体験のほか、 写植文字で名刺の活版印刷のご注文も承ります。」とのことです。
稼働する手動写植機に触れることができるたいへん貴重な機会です。ぜひお出掛けください。 |
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2014.6.30(月)
活字書体設計師・今田欣一さんの個展「moji moji Party No.7 今田欣一の書体設計 活版・写植・DTP」が昨日盛況裡に閉幕しました。
私は28日(土曜日)の午後から訪問しました。
今田さんの書体設計の歩みをご本人が詳しく語られるトークイベントがあり、これまで決して明かされることのなかった書体設計の裏話や秘密の写真など、打ち明け話が満載でした。
会場のギャラリーにも多くの人が訪れ、特にトークイベント終了後は中に入れないほどの超満員でした。高校生から元写研社員の方まで、書体を通じて垣根のない交流が生まれていました。
この日の夜は近所のお店で懇親会を開き、この場でしか聞くことができないとっておきの話やマニアック極まりない話などで和気藹々と盛り上がっていました。
翌日は開場から撤収まで会場のギャラリーにいました。
日本の書体デザイナーの個展は他に類がなく、来訪された方がとても興味深く観覧されている様子が印象的でした。今田さんの書体人生が凝縮された会場はお人柄が伝わるような居心地のよい楽しい場所でした。
本展では今田さんが関わられた書体の写植の印字を一部担当させていただきました。また、今田さんが制作された写植や写研に関する歌を亮月製作所で編曲して20年以上振りに甦らせ、BGMとして流していただきました。『写研音頭』『涙のボカッシイ』『一寸ノ巾の呪文』『きょうは写研祭』の4曲です。
以上、ざっと振り返りましたが、とても思い出深い取材と参加となりました。会場に於きましては今田欣一さんをはじめ、主催の株式会社文字道の伊藤さん、オーナーのGallery cafe 華音留さん、著名な書体デザイナーさんからお馴染みの文字好きの皆さん、そして初めてお会いした方までたいへんお世話になりました。本当にありがとうございました!
この催しの「写植レポート」は追って執筆したいと思います。
写植展のお知らせ(終了しました) |
2014.4.28 掲載
2014.5.15・6.18 追記
東京は根津で恒例となった写植の催し、またやります!(2014.6.29 終了しました。)
◉moji moji Party No.7
今田欣一の書体設計 活版・写植・DTP
(それぞれ画像をクリックすると別窓で拡大します)
会期 2014年6月24日(火)〜6月29日(日)
会場 Gallery cafe 華音留
東京都文京区根津二丁目22番4号 1階
東京メトロ千代田線根津駅より徒歩3分
時間 12:00〜19:00(最終日17:00まで)
企画・主催 株式会社文字道(→moji moji Party 公式サイト)
今回の moji moji Party では、書体デザイナーの今田欣一さん(→琴棋洞)が60歳を迎えられるにあたり、その功績を振り返る展覧会を企画しました。案内はがきの・(中黒)60個は、満60歳ということをあらわしています。
「いまりゅう」「ボカッシイ」といった写研在籍時代の書体は勿論のこと、その後「欣喜堂」ほかにて制作してこられた書体に至るまで、今田さんの長きに亘るご活躍を間近でご覧いただくことができます。
今田さんの制作した書体をじっくりお楽しみいただくため、今回は moji moji Party 恒例の写植印字体験はお休みです。今田さんに関連した写植書体の文字盤等の展示はあります。
根津の路地裏にある居心地のよいギャラリーで穏やかな時間を感じながら、今田さんの書体の世界に触れてみませんか。写植時代を知る方から学生の方まで、会場では垣根のない交流が生まれています。ここだけのとっておきの話が聞けるかも。
(2014.6.18追記)本展のオープニングコンサートとして、「桂光亮月プレゼンツ 初音ミク『写植のうた』を歌う」と題し、『写植のうた』をはじめ関係者にしか知られてこなかった楽曲たちを上演します(私はいません)。
楽譜の提供を受けて亮月製作所にて編曲を施し、VOCALOID の初音ミクを使用して、長い間記憶にしか残されていなかった歌を数曲再現しました。
たいへん貴重な展示です。ぜひお出掛けください。
→展示の詳細(欣喜堂通信の該当記事) |
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2014.6.14(土)
知人から依頼のあった写植書体の印字を行いました。
※つめ組み用文字盤使用。当室のPAVO-JVは画面が使用できないため、微調整はしておりません。
書体は「石井太ゴシック体」と「ゴナB」。
石井太ゴシック体は私の書体観の基準と言ってよく、最も違和感なく目に入ってくる書体です。手本を側に置かなくても空で描けそうなほど馴染んでいる存在です。
一方で、ゴナB。この書体を見掛ける頻度はこの20年ほどで激減し、名古屋へ出掛けた時に地下鉄のサインに使われているのを見てほっとするような、遠くなってしまった存在です。
写植を追いかけ出した頃、ゴナに代わって使われるようになったモリサワの「新ゴ」が酷似していると感じ、どうしても許せませんでした。印刷物を見ては「何でこんな書体が存在し、使われているんだ……。」と溜め息をつく日々でした。
長い時間が流れ、久し振りに印画紙で見たゴナB。
新ゴとは全く別物でした。極めて安定した骨格。不均等がなく節度のある懐。均質な太さに見える、よく調整された滑らかで引っ掛かりのない輪郭。無理な描き方をしない漢字、特にはねが直角でなくゆったりとやや広がる感じ。小さめのQ数でベタ組みした時の品の良さ……。ゴナをよく知っている人こそ、新ゴでは代わりにならないことをよく分かっていることでしょう(※DTPでは新ゴを使わざるを得ないということは、ここでは差し置きます。書体そのものがどういう性質であるかということです)。漢字を並べるだけでも、受け取る雰囲気に大きな違いがあります。
新ゴには新ゴの書体としての特性があり、ゴナでは発揮しきれない陽気さやおどけた感じ、はち切れんばかりのエネルギーを持っています。この書体でないと生きない場面があることは間違いありません。
ただ、この新ゴばかりになった今を受け止めていると、心のどこかに足りないものがあるということを実感するばかりです。書体は道具です。今回のように使いたい書体を実際に使うこと。その書体が「ある」ということをこの世に示し、問うこと。それが唯一の手だてなのではないかと思っています。「今なら使える」のです。使わなければ、世の中からも、人々の無意識の記憶からも、本当に消えてしまいます。
依頼者様はスキャンしたデータをご希望でしたので、印字に際しては若干ぼけ足がある黒白写真用の印画紙ではなく写植用の印画紙のストックを使用しました。
この依頼では、印画紙は成果品ではなくあくまで素材です。そのため、私の環境ではどのように現像条件を変えてもカブリ(未使用の印画紙が感光等して黒くなる現象)が起きてしまう「三菱PTS-MR75」(廃番)を使用しました。2年ほど前に譲って頂いたものです。
印画紙全体がカブリで灰色になるものの、印字は非常にシャープで、スキャン後に色調を補正すれば納品する文字の品質に全く問題はありません。未使用のものを大量に頂いたので当分大丈夫です。Nさん、とっても助かっています! 譲って頂いて本当にありがとうございました!(←私信)
2014.5.18(日)
【日録】6月に開催される今田欣一さんの個展に備え、今田さんにまつわる写植書体の印字をしました。
→今田欣一さんの twitter 該当記事(5月22日付)
今回の印字は作品の意味合いが強いので、光沢があって見映えがする黒白写真用印画紙の「フジブロWP FM4」を採用しました。
指定さえ作ってしまえば、あとはそれに従って写植機を正確に操作するだけです。とはいえものすごく集中力が必要で、今どの文字まで打ったか、次に打つ文字はどこか(採字)、写植機をどのように操作するのかといったあらゆることを同時に考えながらの作業です。少しでも気が散ると打つ文字を間違えたり、主レンズを変え忘れたり、字づら検出機能を切り忘れたり、光源ランプの強さを変え忘れたりして一巻の終わりです。何枚も反故にしてしまいました。
丸一日かかって、今田さんに納める印画紙が完成しました。
つやつやで純白の印画紙に真っ黒で滑らかな文字。写真植字の真骨頂です。印刷原稿の部品という本来の用途から距離を置いた素材を使ったことで、写真植字そのものの魅力をうまく引き出せたように思います。
「moji moji Party No.7」にて展示の予定です。ぜひご覧ください。
2014.4.28(月)
【写真植字】4月22日から今日にかけて開催された写植展「moji moji Party No.6 写植機体験展」が無事終了しました。
若かりし日の石井茂吉氏と「□写植□写植□写植……」ミニポスター
豊富な文字盤を使って実際に印字を体験できる
写研の卓上型手動写植機「SPICA-AH」(1986年製)
印字体験の一幕。写植に触れながらゆるやかな時間が流れる
ミニレポートは後日掲載します。取り急ぎご報告まで。
会場でお会いした皆様、主催の株式会社文字道の伊藤様、会場オーナーのGallery cafe 華音留様、本当にありがとうございました!
写植展のお知らせ(終了) |
2014.4.10 掲載
昨年の初夏、東京は根津で開催された写植の催しが帰ってきた!
(2014.4.28 無事終了しました)
(画像をクリックすると別窓で開きます)
◉moji moji Party No.6 写植機体験展
会期 2014年4月22日(火)〜4月28日(月)
会場 Gallery cafe 華音留
東京都文京区根津二丁目22番4号 1階
時間 11:00〜19:00(最終日17:00まで)
企画・主催 株式会社文字道
文字道さんの告知によれば、本展では「スピカAH(写植機)の写植体験(有料)と写植ライブラリーの展示販売」を行うとのことです。
SPICA-AH としてこの個体が「世界で唯一稼働している」かは私には分かりませんが、かなり珍しいと思います。
昨年9月に催された表参道での写植展で好評を博した印字体験も行われます。(事前申込制・有料。→体験募集要項)
生きた写植に触れることができるたいへん貴重な機会です。ぜひお出掛けください。 |
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2014.4.3(木)
写植の印字に必要な印画紙のうち、富士フイルムの「富士写植ペーパー」が生産終了とお知らせして久しいですが、昨年10月に注文したものが届きました。
使用期限は2016年11月でした。当室で使うためだけのささやかな量ですが、重要な印字のときのために細く長く使っていきたいと思います。
今のところは譲って頂いた使いさしの富士写植ペーパーを暗室に常温保存して使っていますが、有効期限を経過して3年程度のものでもカブリ等はなく、新品同様の印字結果です。保存状態にもよるかとは思いますが、今回購入したものも2020年辺りまでは印字に差し支えないのではないでしょうか。
いずれにせよこれで写植専用の印画紙の歴史は終わります。早かれ遅かれ写真用印画紙で代替する時代が来ることでしょう。「写植レポート」の「ミニレポ・写真用印画紙を写植に使う」も参考にしていただけましたら幸いです。厚手であり旧来の版下作業には向かないこと、僅かにぼけ足があること、自動現像機には不向き・SPICA では薄く印字されるという情報が寄せられていることはご承知を。
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